当院のコロナ診療
2023年3月13日、ついに日本でもマスク着用義務が緩和され、社会はウィズコロナへと進み始めました。5月には、新型コロナウイルスはインフルエンザなどと同等の5類感染症という扱いになる予定です。今年は、例年にも増して春を感じられそうです。
当院では、主に軽症、中等症の患者様を中心に診療を行ってきました。20年の春から現在に至るまで、新型コロナの入院患者様の数は大きく変動し、その都度通常診療の制限を行ったり、解除したりを繰り返してきました。
時には検査や治療の延期などでご迷惑をおかけすることもありましたが、皆様のご協力のおかげで、ここまで診療を続けてくることができました。今後、新型コロナの診療がどのように変わっていくかは分かりませんが、地域の中で役割を果たしていけるよう努めてまいります。
また、当院では21年2月から、医療従事者を対象にmRNAワクチン(ファイザー社製)の接種を開始し、その効果について研究を行ってきました。その研究結果について、22年11月に韓国・ソウルで行われた国際学会で発表し、高い評価を頂きました。
ワクチン接種によって、感染の予防や重症化の抑制は期待できるものの、決して「感染しなくなる」というわけではありません。また、ワクチンの効果は、時間経過とともに下がっていく可能性があります。
「ワクチンを打っているから大丈夫」と油断せず、これからも感染拡大には注意しつつ、新たな春を満喫したいところです。
春の眼科検診での視力と色覚検査
新学期を迎え、われわれ眼科医も学校健診のため小・中学校を訪れます。視力検査を含め、目の病気が疑われれば専門医を受診するようにと、健診の結果用紙を子供達は学校から渡されます。
その中で特に注意しなければならないのが小学校一年生の視力検査の結果でしょう。小学校一年生にとって視力検査は初めての経験で、やり方もよく理解できないかも知れません。そのため本来の視力より悪く出ただけということもあります。
しかしながらこの年齢で結果が悪い場合、遠視や乱視のお子さんも多く見受けられます。そして、遠視や乱視の場合、弱視や斜視を伴っている場合があり、この一年生の時期を逃すと後で眼鏡をかけたとしても視力が回復できなくなってしまうこともあります。目にとってラストチャンスだともいえます。
簡単にいうと、近視は少なくとも近くを見ている時にはきちんとピントが合った画像が目に入るので弱視になることはありません。それに対し強い遠視や乱視の場合は近くも遠くもピントが合わず常にぼやけています。
いつもはっきりしない画像しか見えていないため、放置すると眼鏡で矯正しても弱視になってしまったり、また、斜視を来すこともあります。 先天性色覚異常は男児だと、おおよそクラスに1名いる割合です。
小学校に上がると消防車の写生などの色使いにより色覚異常の生徒ははっきりと現れることになります。図工以外の教科でも先生が黒板に書いた字が見づらい・学校の掲示物が読みづらいなどの不具合が出ることもあります。
小学生のうちにぜひ色覚検査も受けることを勧めます。 健康診断で視力の結果が悪いときには放置せず、必ず専門医の精密検査を受けましょう。
『ストレスと栄養』と『腸活』の深い関係
ストレス(心や感情の乱れ)は脳がつくり出すものです。脳は数千億個の脳神経細胞の集まりで、それぞれ脳神経細胞のその働きによって情報伝達物質が違います。
感情や感覚の伝達情報を受け取る神経細胞は興奮系(ドーパミン、ノルアドレナリン)、抑制系(セロトニン、メラトニン)、調整系(γ-アミノ酪酸⦅GABA⦆)がありおよそこの3つのバランスによって心や感情が複雑にコントロールされています。
これらの伝達物質は普段の食事で摂取するタンパク質(プロテイン)やアミノ酸などからつくられ、ストレスが生じた時にこれらのアミノ酸は激しく消費されます。
そのためこれら伝達物質をつくる栄養(タンパク質や必須アミノ酸、グルタミン、ビタミンC、B群、ミネラル)をより多く摂取する必要があります。
しかし、極度の疲れやストレスの時は胃腸の状態も悪く、なかなか食事も取れない状態も多く、肉や豆腐(大豆)などのタンパク質ではなく、早急に吸収されやすい必須アミノ酸を摂取することを勧めます。
この必須アミノ酸は体の中でつくることができない9種のアミノ酸で、食事やサプリメントでしか取れません。
しかし、肉や豆腐などを食事で取っても胃腸の分解酵素で分解されない限り体には吸収されません。そのため早急に吸収される必須アミノ酸の摂取が合理的です。
必須アミノ酸は朝、夕など他の食べ物と一緒に取らない方が吸収されやすく、その時にビタミンB群を一緒に摂取することを勧めます。そしてストレスで睡眠が浅い時には分岐鎖アミノ酸(BCAA)を寝る30分前に摂取することを勧めます。
そして、同時に『腸活』が必要です。腸内環境も悪化しているので、整えることでタンパク質や必須アミノ酸、ビタミン、ミネラルなどが吸収される環境をつくりましょう。ω-3(DHA、EPA)、ビタミンDを摂取することを勧めます。
病気と闘う?
ドラマの主人公が病気の人に「病気と闘うというのは、おかしいと思います。病気と闘うのは医療者であって、患者は闘わなくていいと思います。」と言うシーンがありました。
なるほど、そういう考え方もあるかと感心しましたが、後から「それは違うな」と思い直しました。もちろん、医療関係者は日々、いろいろな疾患と闘っていますが、それぞれの患者さんにも一緒に闘っていただかなければ、病気を克服することはできません。
例えば、リハビリは本人の意欲、やる気がなければ続けられませんし、理学療法士さんにやってもらうという受け身の姿勢では効果が上がりません。医療機関などを離れても、自分一人で続けていく努力が必要です。
糖尿病や高血圧では、きちんと服薬することはもちろん、本人が食事の節制や運動など、日常生活を改善することが必要です。医療関係者に「お任せ」では病気とうまく付き合っていくことはできません。
また別の番組で、病気に悩む人が「頑張れっていうけど、これまでも頑張ってきたのに、これ以上、何を頑張ればいいの?」と泣き叫ぶシーンも記憶にあります。
私の師匠は病棟回診の際、いつも患者さんに「頑張れ」ではなく、「頑張りましょう」と声をかけていました。「私も一緒に頑張りますよ」と伝えているのだと、感心したものでした。
私は、病気とは闘わずに、お付き合いしていくと考えた方がいいと思っています。残念ながら、病気は完全に治すことは難しく、長く付き合って行くことの方が多いと思います。
病気になる前の体に戻ることを目指すのではなく、病気の症状はあるけれど、暮らしていけるというところを目標にすると、悩みが小さくなると思うのです。
人生はマラソンに例えられることがありますが、病気は困った競走相手です。 この相手には勝たなくてもいいので、負けないようにゴールすることを目指しましょう。医療関係者は、そのための伴走者として、一緒に頑張ります。
貧血といわれたら
健康診断などで貧血の診断を受けたことがある方もいらっしゃると思います。貧血とは、血液中の赤血球の中にある、酸素を運ぶ役割のヘモグロビンの濃度が低下した状態を指します。
症状としては目まい、立ちくらみ、息切れ、疲れやすい、などがありますが、症状が出るのはかなり進行してからになります。ただしここにあげた症状は貧血でなくてもしばしば起こりうるので、「貧血をおこした」と患者さんが診察室で表現しても実際には本当の貧血はなかった、ということはよくあります。
貧血の原因はいろいろありますが、大きくは①血液そのものの病気(白血病など)、②慢性疾患(腎臓病や肝臓病など)や加齢に伴うもの、③鉄やビタミンなどの血液(赤血球)を作るための原料不足によるもの、に分けられます。
その中で最も多いのは鉄不足による貧血、いわゆる鉄欠乏性貧血で、貧血全体の約60〜80%を占めるといわれています。 鉄不足は偏食による栄養不足や胃切除後の吸収不良などでも起こりますが、これらの特別な事情がなければ、現代の日本で普通の食事をしている限り鉄の摂取不足になることは少ないと考えられます。
むしろ多いのは何らかの出血によって赤血球が減り、その結果赤血球に含まれていた鉄分が体内から失われたケースで、例えば鼻出血、歯茎の出血、痔出血、月経なども原因となります。
特に問題となるのは消化管(胃や腸)からの出血です。目に見える程の出血(吐血・下血)があればすぐに気付いて病院を受診すると思いますが、肉眼では分からない程度の出血がじわじわと続いた結果貧血となり、それがきっかけで進行した胃がんや大腸がんが見つかるケースは決して珍しくありません。
貧血と診断されたら放置せず、一度胃カメラや便潜血検査(大腸がんの検査)を受けることが大切です。
白目が真っ赤! 結膜下出血
「目が赤いよ!」と、突然家族や友人に指摘された経験がある方はいらっしゃいますか?鏡を見ると白目が真っ赤になっておりびっくりされたことと思います。
この白目がべったりと赤く染まることを「結膜下出血」と呼び、結膜(白目を覆う膜)の血管が破れて、結膜の下に出血が広がった状態です。小さな点状のものから、斑状のもの、時には眼球結膜全体を覆うような広範囲なものもあります。
強い痛みやかゆみ、目やにといった症状は伴わず、誰かに指摘されて気が付くことも多いようです。出血量が多く、結膜に血腫を形成した場合は違和感、異物感を覚えることがあります。
結膜下出血の原因はさまざまです。眼局所の要因(眼外傷、手術によるものや急性結膜炎によるもの)や、全身性疾患(動脈硬化、高血圧、糖尿病、出血性素因、腎炎、急性熱性疾患など)に伴うものもありますが、思い当たる誘因がなくても出血することがあります。
発症後は1〜2週間程度で自然に出血が吸収され元の状態に戻ります。しかし、出血量が多いと吸収されるのに時間がかかる場合もありますが少しずつ吸収されていきますので心配はいりません。
基本的には眼科受診が必須な状態ではありませんが、
①眼外傷を受けた場合、②痛みやかゆみ、目やにを伴う場合、③頻繁に繰り返す場合、④熱を伴う場合。
これらが当てはまる場合は結膜下出血ではない可能性、全身疾患に伴う結膜下出血の場合もあり、眼科精査・加療が必要なこともありますので眼科を受診してください。
尿潜血が陽性となったらどうしたらよいか
健康診断や内科検診で、尿に血が混じっていないか尿潜血の検査を受けることがあると思います。実際に検査の結果が陽性となったらどうすれば良いのでしょうか。
尿潜血とは、尿の中に血が潜んでいる状態であり肉眼で見ることはできません。しかし、目で見えないからといって決して安心もできません。尿に血液が混じっているということは、尿の通り道のどこかで血が出ているということであり、そこで異常が起きている恐れがあるのです。
尿潜血の原因としては、膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症、腎臓結石、尿管結石などの尿路結石症、腎臓がんや膀胱がんなどの悪性腫瘍、糸球体腎炎などがあります。
膀胱炎では排尿痛や残尿感、尿管結石では強い腰背部痛を自覚することもありますが、無症状で気が付かないこともあります。
ただし、尿潜血が出たからといって必ず病気だというわけでもありません。実際に尿潜血のため泌尿器科を受診された患者さんが検査の結果、明らかな異常を認めないことの方が多いくらいです。さらに激しい運動の後や女性であれば生理や痔によっても陽性となることがあります。
それゆえ、尿潜血が陽性だったとしてもすぐに慌てふためく必要はありません。しかし、病気の可能性も否定はできないので必ず医療機関を受診するようにしましょう。
尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)がありませんか?
いぼには大きく分けて、感染しない老人性疣贅と感染する尋常性疣贅、伝染性軟属腫(いわゆる水いぼ)、扁平疣贅などがありますが、今回取り上げるのは、感染するいぼで最も多い尋常性疣贅です。
尋常性疣贅(以下、イボ)は、ヒト乳頭腫ウイルスが感染して起こります。ウイルス性疾患で薬があるものは、エイズ、水ぼうそう、ヘルペス、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザくらいで、残念ながらイボに対して直接的に効果がある内服薬と外用薬はありません。
現在外来で行われている主な保険治療は、液体窒素と漢方薬(ヨクイニン)内服とスピール膏貼布で、液体窒素が治療の中心です。液体窒素はマイナス196度の液体を付けてイボを凍結し、イボに感染した細胞を破壊、壊死させる物理的作用と、凍結で壊死した細胞に対する免疫反応作用により効果を発揮します。施術時には痛みがあり、後日水膨れができることもあります。
ヨクイニンは、イボに対する抵抗力を上げる働きがあります。スピール膏は皮膚を軟らかくするシート状の薬で、イボの部分に貼って1週間後くらいで削りますが、薬がずれて正常の皮膚が剥がれたり化膿してしまうこともありますので、清潔な状態できちんと固定して貼ることが必要になります。
イボは皮膚だけに感染し、他の病気を引き起こすことはありません。ただ、足底のイボが深くなってくると、うおのめのように痛みが出てきますし、指や顔に出てしまうと外見上気になると思います。イボは人から人へ接触して感染しますが、いつどこで誰から感染したのか不明であることが多いので、たまに足底や指を見る習慣をつけていただき、もし、何か見つけた時は早めに皮膚科を受診して下さい。
諦めない胃がんの治療
以前と比べて減少傾向にはあるものの、年間12万人以上発症、毎年4万人が亡くなっている胃がん。20代の若さで発症する方もいますが、50代で急増、70〜80歳で発見される方も年々増えてきています。
平均寿命が延び高齢者人口が増えていることもあり、70歳以上の胃がん患者数は、以前の2倍まで増えています。
以前は年齢で治療を諦めていた胃がんの治療も胃カメラ検査機器の進歩による苦しくない胃カメラで、早期の段階での胃がんの発見もできるようになりました。また、身体に負担のかかりにくい手術や新薬の開発などにより、高齢者でも新しい治療の選択肢が増えてきています。
粘膜にできた胃がんは、進行すると深く潜りリンパ管や血管を通ってリンパ管や肝臓・腹膜など他臓器へ転移します。粘膜にとどまっている早期の胃がんは、手術でお腹を切らなくても胃カメラで粘膜内のがんを切除する「ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)」で治療できます。
リンパ節転移が疑われる場合でも腹腔鏡やロボット手術など術後の身体への負担も大幅に軽減されています。 がん治療の薬も、ここ数年で目覚ましい進歩を遂げています。
「HER2タンパク質」を持っていると抗がん剤の他、がん細胞だけを狙い撃ちする「分子標的治療薬」を使用できます。
既に手術できない状態で発見された約2割の方がこのタンパク質を持っているといわれており、この薬が著効できれば手術で病巣を切除することも可能となる場合もあるのです。
このタンパク質を持っていなくても、多種の抗がん剤の組み合わせや最近胃がんへの適用も拡大した「免疫チェックポイント阻害薬」の使用より、治療効果は確実に上がっています。 抗がん剤の副作用を軽減する薬も開発されており、また分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬は、効果が高いだけではなく副作用も起きにくいメリットがあります。 ただし、胃がんは予防も大切です。
胃がんの主な原因はピロリ菌ですが、喫煙や過剰な塩分摂取も発生のリスク要因とされています。
ピロリ菌は 採血・検尿・検便・呼気検査・胃カメラでの病理検査でチェックすることができます。
ピロリ菌がいる場合は1週間の内服薬で除菌しますが、除菌後も安心してはいけません。
除菌前に胃がんにつながる胃炎に進行していると除菌後にも胃がんになることもあるため、除菌後も定期的な胃カメラ検査を受けることが大切です。
口腔インプラントの安全・安心を目指して
2012年、公益社団法人日本口腔インプラント学会から「口腔インプラント治療指針」が発表されました。
これは、内閣府から出された「日本21世紀ビジョン」において、国民生活の最大の願いとして「安全・安心」が取り上げられたことにより、同学会がまとめたものです。 内容は多岐にわたり専門的なことが多く書かれておりますが、ここでは、患者さんが受けるべき説明事項について列記させて頂き、実際に説明を受ける時の参考にしてほしいと思います。
①インプラントと入れ歯、ブリッジなど他の治療法との比較や利点、欠点
②インプラント残存率(他の治療法との比較)
③期間
④費用
⑤麻酔法、痛みや手術後の状態
⑥治療の方法やそれに伴う骨移植、軟組織移植などの前処置の有無や侵襲
⑦経過不良のリスクや合併症
⑧経過不良の場合のリカバリー法
⑨回復後の状態
⑩メンテナンスについて
上記のような説明の努力はしていますが、医師と患者さんとのコミュニケーションが良好なことが、安心した治療を受けられる要因の一つでもあります。
何か不明な点や疑問点などがあれば医師やスタッフに聞いて頂き、安心した治療を受けることをお勧めいたします。
また、「口腔インプラント治療指針」は同学会ホームページ上で誰でも見ることができるので、興味のある方は一度検索してみて下さい。