より苦痛の少ない胃カメラへ
私が医師になった30年ほど前の胃カメラは口から入れるタイプ(経口内視鏡)しかなかったので、検査中ゲーゲーするのが当たり前の光景でした。
時代は変わり、近年は鼻から入れる細い内視鏡、いわゆる経鼻内視鏡が広く行われ楽に検査できるようになりました。
口から入れるのが当然と思われていた胃カメラを鼻から入れようと最初に考えた人は誰だったのでしょうか?
経鼻内視鏡が登場する前から耳鼻科ではのどの奥をみる内視鏡(喉頭鏡)、呼吸器内科では気管支をみる内視鏡(気管支鏡)が使われていました。
それらは当時の胃カメラに比べると細いものでしたが、その分長さも短くて機能的な制限も数多くありました。
1983年のある日、耳鼻科医が気管支鏡を使って鼻から食道まで入れて観察したのが経鼻内視鏡の始まりと言われています。
93年には当時最も細く小児の口からも挿入できる胃カメラが発売され、それを大人の鼻から入れて胃の検査に使う医師が現われました。
いよいよ本格的な経鼻内視鏡の始まりでしたが、当初はまだ画質も粗く、レンズを洗浄する機能がないなどまだまだ経口内視鏡には劣る状況でした。
その後の技術革新とともに機器の改良が進み、現在では昔の胃カメラと遜色なく検査できるまでになっています。
経鼻内視鏡は鼻炎などの病気を持っているとせまくて挿入できなかったり、通過時に痛かったり、検査後に鼻血が出る場合もありますので経鼻内視鏡がすべてに優れているわけではありませんが、最大の利点は挿入時に舌の付け根に触れることなく挿入できるため嘔吐(おうと)反射(ゲーゲーすること)がほとんど起こらないということです。
検査後、患者さんに尋ねると、ほとんどの方が経口内視鏡に比べて検査が楽だったと答えています。
私自身も実際に経鼻内視鏡で検査を受けてみて、「これで胃がんで命を失わずに済むなら我慢できる範囲」の苦痛だと感じました。今後ますます楽にできる方向へと発展していくことでしょう。