何のために薬を飲むのか
今に始まったことではありませんが、「高血圧の薬は一度飲むとやめられない。だからなるべく飲まないほうがよい」という噂が流れています。すでに高血圧の治療を開始されている方々には「そんなバカな」と思える噂かもしれませんが、高血圧を指摘され新規に受診される方々の約半数はこの噂を口にします。そんな時、詳しく聞いてみると、皆さんに共通する二つの誤解があるようです。
ひとつは薬への誤解です。病気に縁の無い人は薬といえば風邪薬や頭痛薬など、治ってしまえばもう飲まなくてよい薬を想像するでしょう。しかし高血圧の薬はそうはいきません。そもそも高血圧症を「治す」薬ではないからです。血圧を下げる働きがあるだけで、薬を飲んでいる間は血圧を下げられますが飲まなくなれば元の高血圧になります。無症状でも血圧を下げたほうが良いのは動脈硬化の進展を防ぎ、心筋梗塞や今話題の脳卒中になる危険性を減らすためです。
もうひとつの誤解は「一度飲んだら」という部分にあります。先に述べたように血圧の薬は頭痛薬などと違って長期間飲む必要がありますが、その理由は「薬を飲み始めたから」ですか? そうではありませんね。先のお話を踏まえれば高血圧が治っていないから飲み続けるということがわかると思います。
親しい人から聞いた噂を初対面の私が打ち消すのは容易ではありません。診察時に噂が正確でないことを説明しますが、半信半疑の方も多いようです。
そこで皆さんにお願いです。身近に未治療の高血圧の方がいませんか? きっと噂を信じているはずですからそれは誤解だと説明してください。噂のために身近な人が心筋梗塞や脳卒中になってしまっては後悔しますよ。