『しあわせ』な矯正歯科治療
昨年今年と、当院で矯正歯科治療を受けた口蓋(こうがい)裂患者さんの資料を整理して某大学の大学院生と一緒に指導を含めて論文にまとめており、昨年は1編、今年も3月に提出予定です。一応わたしもその大学の非常勤講師となっておりますが、若い院生と一緒に論文を書いていると、自分も本当に勉強している感じがしております。矯正歯科の技術は、その人独自のものであるという面もあることから、矯正歯科に携わる歯科医の中には自分の技術を「芸術」とか「アート」と表現する人も少なくありません。
しかし「医学が科学の一分野である」ということは、万人が認めるところであり、矯正歯科学を含めた歯科学も当然科学の一分野です。
最近EBM(Evidence Based Medicine)という言葉が良く使われ ています。
聖路加国際病院の福井次矢先生は「〝適切な診療〟とは、つまるところこれまで行われてきた研究についての質の高いエビデンス(検証結果)を医療従事者が知っているかどうかにかかっている。
治療効果・副作用・予後の臨床結果に基づき医療を行うというもので、専門誌や学会で公表された過去の臨床結果や論文などを広く検索し、時には新たに臨床研究を行うことにより、なるべく客観的な疫学的観察や統計学による治療結果の比較に根拠を求めながら、患者とも共に方針を決めることを心がけるべきだ」と述べております。矯正歯科の分野のなかで、口唇顎口蓋裂児(こうしんがくこうがいれつじ)の治療は、15年以上にわたり歯科医と患者さんが関わりあう治療ですので、医学の進歩の把握やEBMの実践、高度な治療技術の習得が当然必要です。
しかし治療により得られた結果が、患者さんおよびその周りの家族の方々に喜んでもらえたか、その患者さんの「しあわせ」に関与できたかどうかを数値で測ることは不可能ですが、謙虚に考え、受け止め、考え続けなければならない問題です。