春、学校健診の季節ですが
新学期を迎え、我々眼科医も学校健診のため小・中学校を訪れます。視力検査を含め、目の病気が疑われれば専門医を受診するようにと、健診の結果用紙を子供達は学校から頂いてきます。その中で特に注意しなければならないのが小学校一年生の視力検査の結果でしょう。小学校一年生にとって視力という検査は初めての経験で、やり方もよく理解出来ないかも知れません。大勢のお友達の中で検査に集中出来ないこともあるでしょう。そのため検査結果が実際より悪くなりA(1.0以上)にならないと言うこともあります。
しかしながらこの年齢では結果が悪い場合、遠視の場合が多く見受けられます。そして、遠視の場合、弱視(じゃくし)や斜視(しゃし)を伴っている場合があり、この1年生の時期を逃すと後でメガネをかけたとしても視力が回復出来なくなってしまうこともある、目にとってラストチャンスの時期だとも言えます。
簡単に言うと、近視は近くは見えて遠くがピントがぼやけてしまう状態です。少なくとも近くを見ている時にはきちんとピントがあった画像が目に入るので弱視になることはありません。
それに対し遠視の場合、もし度数が強ければ近くも遠くもはピントが常にぼやけてしまいます。いつもはっきりしない画像しか見えていないため、視機能(ものを見る力)が発達することができなくなります。そのため放置するとメガネで矯正しても1.0が出ない弱視になってしまうことがあります。また、斜視を来すこともあるのです。子供の視力は生まれたときは0.01しか有りませんが、次第に発達して4~5歳で1.0となり、視力が完成すると言われています。ですから6歳になっている小学校1年生は視力にとって非常に大事な時期といえるのです。
視力の結果が悪いとき、斜視の疑いがある場合には必ず専門医の精密検査を受けましょう。
子供の目の病気を見つけてあげましょう
生まれたばかりの赤ちゃんの視力は0.01ぐらいで、1年後には0.1前後に、その後4~5歳で1.0となり視力の発達が完成します。この視力の発育時期のあとで病気を発見し治療しても、視力は1.0にならないことが多いのです。これを<弱視(じゃくし)>と言います。この段階で目の異常を発見してあげることが重要です。
◆目の大きさが左右で違う、瞳の中が白く光って見える。
◆両目が寄って見えたり、逆に片目が外側に向いている。
◆ものを見るときに片目を細めてみる。本やテレビを極端に近づいてみる。
◆顔を傾けて見たり、片方の目を隠すと極端に嫌がる。
これらは白内障や緑内障などの目の病気、視力異常・斜視(しゃし)などを発見するために、子供の日常生活の癖から読みとってあげる方法です。
視野の中心がゆがむ中高年の病気~黄斑円孔(おうはんえんこう)
網膜の中心部は視力がとても鋭敏な所で、「中心窩(ちゅうしんか)」と呼ばれています。その周囲直径1.5~2ミリメートルの範囲は、濃い黄色の部分があって「黄斑(おうはん)」と呼ばれます。目の中間部にある透明な「硝子体(しょうしたい)」が年齢とともに収縮してゆく「後部硝子体剥離(はくり)」が起きるとき、影響がこの黄斑部に及ぶと黄斑円孔が引き起こされます。
黄斑円孔は中心窩の網膜に丸い穴(孔)があいてしまう病気です。穴自体は直径一ミリメートルに満たない、とても小さなものですが、最も視力が鋭敏な部分にできるため、大きな影響が現れます。完全な穴が形成されてしまうと、視力は矯正視力でも0.1前後になってしまいます。自覚症状として、初めは物が歪(ゆが)んで見え、進行すると視野の真ん中だけが見えなくなります。物がつぶれて見える、テレビを見ると人の顔だけが見えない、などがよく聞かれる訴えです。この病気は硝子体の収縮が関係して起きるので、60代を中心に起こります。黄斑円孔は10年ほど前までは有効な治療法がありませんでした。しかし今では手術によって視力を取り戻せるようになっています。
手術はまず硝子体を切除します。その後特殊なガスを目の中に注入して、術後はうつ伏せの姿勢を2週間ばかり取ります。そうすると、グリア細胞という周囲の細胞をつなぎ合わせる働きをする細胞が現れ、円孔が小さくなっていき、円孔をふさいでくれます。中心窩の組織が修復されるとともに、術後の視力はゆっくりと回復していきます。1回の手術で8~9割の人は、不自由なく暮せるレベルの視力に戻ります。手術の合併症として多いのが白内障ですが、高齢者の場合すでに白内障を持っている場合も多いので、黄斑円孔の手術と同時に白内障の手術もしてしまいます。
片目ずつ目をふさいでみて、物を見る中心に歪みやぼやけを感じる方は一度眼底検査を受けてみて下さい。
朝起きたら白目が真っ赤 球結膜下出血
朝起きて顔を洗ったとき鏡を見てビックリすることがあります。白目が真っ赤になっているのです。痛みもなく、目やにも出ていません。他の人に言われて、初めてその状態に気がつくこともあります。
よく見ると毛細血管が拡張する<充血>ではなく、赤いインクをこぼしたような<出血>であることが分かります。そのような状態を<球結膜下出血(きゅうけつまくかしゅっけつ)>と言います。
ほとんどの場合、朝起きたらなっていたという方が多く、原因も不明ですが、もしかすると、寝ている間にこすってしまっているのかもしれません。
もしくは、ぶつけたり、強くこすったときに起こりますが、重い物を持ち上げて力を入れたとき、お酒を飲み過ぎてひどく吐いたりしたときにも起きることがあります。頻発するような場合は、眼科医の診察を受けるようにしてください。
70歳代の8人に1人に潜む緑内障
先日、岐阜県多治見市に於いて40歳以上の方を対象に大がかりな緑内障の住民検診が行われました。受診した方の数は1万7千人に上ります。その結果として、40歳以上の方の5・8%(17人に1人)に緑内障が認められました。ところが、そのパーセンテージも年齢が上がるに連れて増加してゆきます。40歳代ならば2%台なのに対し、70歳代ならば実に13%(8人に1人)の方が緑内障になっているという結果になりました。
さて、それでは緑内障と言う病気はどんな病気なのでしょうか。カメラのフィルムにあたる網膜には、一面に視神経がはりめぐらされています。その視神経が、太い1本の束となって脳へ向かうところを、視神経乳頭といいます。緑内障は、この視神経乳頭が眼球内側から押し潰されることで凹みができ=陥凹、正常に機能する視神経が減少する病気です。一度失われた視神経は、二度と元に戻りません。病気の進行とともに、見える範囲が徐々に狭くなり=視野欠損、最悪のケースでは、光を失うことになります。
視神経が痛められる大きな原因は、眼圧が高過ぎる状態「高眼圧」です。高眼圧は、空気を無理につめてパンパンに固くなったボールのようなものです。しかし、眼圧が正常でも、視神経乳頭が陥凹することもあります。それは高齢者の場合、視神経乳頭の構造が相対的に弱くなる(眼圧に対する感受性が強過ぎる)ためです。
緑内障治療の最初のキーポイントは、早期発見です。40歳を過ぎたらできるだけ眼底検査を受けるようにしましょう。
緑内障は早期発見と適切な治療により、多くのケースでは、一生十分な視野・視力を保つことができるようになっています。緑内障は途中まで、自覚症状がほとんどありません。一旦視野の異常が起きたら後戻りはできないのです。眼圧コントロールの必要性をよく理解し、欠かさずに通院しましょう。
携帯のメールを打つときはドライアイに注意
涙は眼球表面全体を覆い、それを潤し、眼を守るバリアとして働いています。涙の量が減ったり成分が変化すると、角膜や結膜が乾燥し、傷つきます。これがドライアイです。といっても、「目が乾く」と感じることより、目が疲れる、目がしょぼしょぼするなどの目の不快感が主な症状です。疲れ目を訴えて眼科を訪れる人の約6割はドライアイが関係しているという調査もあります。
目が疲れやすい/目が乾いた感じがする/目がしょぼしょぼする/目がゴロゴロする/目が重い/目が痛い/なんとなく目に不快感がある/目ヤニが出る/目が赤い/まぶしい/目がかゆい/物が霞んで見える/涙が出る。
この中で五つ以上あてはまれば、ドライアイかもしれません。
ドライアイになる原因には次のような要因があげられます。
(1) |
空気の乾燥(秋から冬にかけて空気が乾燥していると、目の表面から涙液が蒸発しやすくなります) |
(2) |
瞬きが少ない(読書やパソコン操作に集中していると、瞬きの回数が減ります。最近では携帯のメールを打つときにも多く見られVDT症候群と呼ばれています) |
(3) |
コンタクトレンズの装着(コンタクトレンズが水をはじくため、目が乾燥することがあります) |
(4) |
シェーグレン症候群(中年の女性に多い病気で、目や口、鼻などの粘膜が乾燥し、関節痛が起きることもあります) |
ドライアイの治療には、
(1) |
点眼薬で目を潤す(人工涙液や保水効果のあるヒアルロン酸という薬を点眼して直接、眼の表面を潤すことが、ドライアイの基本的な治療法です。なるべくこまめに点眼します) |
(2) |
涙点を塞いで涙の排出を減らす(涙を排出する涙点に小さなプラグを差し込んだり、涙点を閉じる手術をして塞いでしまえば、涙を眼球表面に長く留めることができます) |
(3) |
フード付き眼鏡の利用(自分の眼鏡にフードを取り付けたり、フード付きドライアイ専用眼鏡で涙の蒸発を防止)などがあります。 |
赤くなっても大丈夫:結膜下出血(けつまくかしゅっけつ)
「少しチクッとした後、鏡で見たら白目が真っ赤になっていましたが、見え方に変化はありませんでした」
皆様こんな経験ありませんか?
目やに等がなく「あかんべ」をしても下まぶたの裏側が充血していなければ、それは結膜下出血と言い、あまり心配いりません。
結膜下出血が起こる原因は完全には解明されていませんが、結膜弛緩(しかん)症といって白目が加齢に伴って弛(ゆる)んできたり、内科で血液を固まり難くするお薬を使用していると出血を起こし易いと言われています。放置しても約1~2週間で出血は吸収され、重大な病気の前駆(ぜんく)症状であることは極めて稀(まれ)です。
一つだけ注意が必要なのは白目の充血との区別です。
充血とは血管の中の血液が滞(とどこお)って血管が太く腫れ上がった状態で、眼に炎症が起きている兆候です。この様な症状は眼科での精査が必要となります。
まぶたが下がって見えにくい眼瞼下垂(がんけんかすい)
眼の老化というとまず思い浮かべるのが老眼ですが、眼瞼下垂もよく起こる現象です。
眼瞼下垂は読んで字のごとくまぶたが弛(ゆる)んで下がってくることですが、この症状は、加齢と共に眼窩(がんか)や瞼(まぶた)の脂肪組織が減少し、皮膚の弾力性が失われ、瞼を上げる筋肉の力が低下するために起こります。
眼瞼下垂になると視野が狭くなるばかりでなく、下がった瞼を上げるためにおでこの筋肉(前頭筋)を多用するため眼精疲労、頭痛、肩こりなどの原因となることもあります。そのような症状の強い場合は手術治療します。
手術は局所麻酔が可能です。弛んだ皮膚を切除すると共に瞼を上げる筋肉を短縮する手術で、著明に症状は改善します。
それにより表情が若々しく見える方もいるようです。鏡を見て瞼の下がりが気になる方、お近くの眼科医に相談してみて下さい。
心配ないです 結膜下出血
少しチクッとした後で、鏡を見たら白目が真っ赤になっていてびっくりしたことはありませんか?
これは結膜下出血といって、結膜(白目)の血管が破綻(たん)することにより結膜下に出血が拡がってしまう疾患です。出血は眼の表面だけであり眼内の出血、例えば、眼底出血とは異なり視力に影響を及ぼすことはありません。ほとんどの場合、1~2週間で出血は自然に吸収されます。多くの方がビックリされて眼科を救急受診されますが、心配しなくて大丈夫です。
しかし、結膜弛緩(しかん)症といって白目が弛(ゆる)んでまぶたの縁(ふち)に乗り上げてしまう様な症状があると、出血を頻繁に繰り返すため、手術加療を行います。
また、目やにが出たり、下まぶたの裏側まで赤く充血している場合は、結膜炎や他の病気を伴っている場合もあり、眼科受診と治療が必要です。
目薬の正しいさし方をご存知ですか?
点眼薬の正しいさし方をご存知でしょうか?
薬の効果を十分に発揮させ、副作用を防ぐために点眼薬の使い方を復習してみましょう。
先ず手を石鹸で良く洗い、片手で下瞼(したまぶた)を軽く引いて薬を1滴確実にさします。この時、容器の先がまつげやまぶたに触れないようにします。点眼薬をさした後2~3分は静かにまぶたを閉じ、目頭を軽く押さえましょう。あふれた点眼薬は清潔なガーゼやティッシュで直ぐに拭き取って下さい。
2種類以上の点眼薬がある場合は5分位間隔を空けて下さい。一般に油性や懸濁(けんだく=白くにごった)点眼薬は後から点眼します。特に注意がない限り寝る前に点眼しても構いません。
時に、薬の効果を高めようとして、1日4回点眼の薬を8回さす方がいますが、効果は2倍にはなりません。
決められた回数を守りましょう。