あなたは、あと何年目を使いたいですか? 〜角膜内皮細胞〜
洞爺に行ってきました。今朝(10/14)、洞爺湖越しに見える羊蹄山はきれいに雪化粧していました。
ところで…羊蹄山から出た光は私の眼のなかの、角膜、前房水、水晶体、硝子体を通過したのち光を感じる網膜に到達し、網膜から脳に信号が届けられます。
光の情報が正確に網膜まで届くためには角膜、前房水、水晶体、硝子体は透明でなければなりません。
ちなみに水晶体が濁った状態が白内障です。
今回の主役、角膜内皮細胞は、角膜を透明に保つ役割を担った細胞です。
角膜の主成分はコラーゲンで、コラーゲン線維が整然と並ぶことで透明性を維持しています。
角膜の裏側には前房水があり、常に角膜内に前房水からの水分がしみこんできます。
角膜内の水分が過剰になるとコラーゲンの並びがくずれ透明性を失うため、過剰な水分を角膜内皮細胞せっせと排出しています。
角膜内皮細胞は生まれた直後には35万~40万個あるとされ、年齢とともにゆっくり減少していきますが、眼が障害を受けると大きく減少します。
角膜内皮細胞には再生する能力はないため、障害を受けるたびに減る一方です。
正常眼では1平方mmあたり3000個ありますが、減少して500個以下になると角膜は透明性を失い、濁ります。
角膜内皮細胞は、角膜を透明に保つ役割を担っているのに、再生しないという点で、最も大切にしなければいけない細胞のひとつなのです。
角膜内皮細胞を減らす原因は、眼のけが、緑内障発作やぶどう膜炎などの病気、眼の手術、コンタクトレンズの不適切な使用が知られています。
最近、コンタクトレンズのなかでもカラコン(カラーコンタクトレンズ)による眼障害問題になっています。
一般的なコンタクトレンズは眼に悪影響の少ない材質になっていますが、現在中高生のあいだに広まっているカラコンは粗悪なつくりのものが多く、よほど厳密に管理していかないと角膜内皮細胞を減らしていきます。
そうはいうものの、未成年者は将来のことよりも今現在のことを重視するのはある程度理解できます。
子供達の眼を守るのは、子供達の将来を考えられる家族、教育関係者、医療従事者の責任です。
緑内障は失明原因の第1位、早期発見を!!
緑内障は眼圧が高いことにより、視神経が圧迫されて枯れていき、見える範囲が狭くなってしまう(視野が欠ける)病気です。緑内障は進行性なので、残念ながら1度失ってしまった視野はもとに戻すことが出来ません。
そんな大変な病気なのに、実は自分ではほとんど気付きません。
なぜならば視野が欠け始めていても、もう片方の目が助けてくれているために、自覚症状が出るころにはかなり視野が狭くなっています。
ですから早期発見がとても大切なのです。
緑内障には色々なタイプのものがあり、正常な眼圧であってもその人にとっては視神経が圧迫を受け、視神経が枯れていくタイプもあります。
これを「正常眼圧緑内障」と言います。
眼圧が高いタイプと違い、眼痛やかすみ目などの症状を伴わないため、発見されていないことが多くあります。
実は日本人はこの「正常眼圧緑内障」が多いのです。
緑内障の診断には「眼圧」「視野検査」「眼底検査」の3つが重要です。
眼科医による総合的な判断で治療を開始します。
緑内障と診断されても眼圧を下げることによって、視野が欠けていくスピードを遅くすることができます。
治療の効果を実感できない病気なのですが、緑内障と診断された方は自己判断で治療を中断しないようにしましょう。
放置すると確実に徐々に視野は狭くなっていきます。
定期的に医師の診察と検査を受け、自分の目の状態を知っておきましょう。
一生涯見える目で暮らすために早期発見、早期治療が最も大事な病気です。
早期発見のために気軽に眼科受診することをおすすめします。
乾き目なのに涙目[結膜弛緩症(けつまくしかんしょう)]
白目(強膜:きょうまく)の表面は結膜(けつまく)という薄い膜で覆われています。
その結膜は黒目(角膜:かくまく)から始まって外側へ伸び、数㎝外側でUターンして赤目(眼瞼:まぶた)の表面から瞼の縁まで戻ってきます。
両手で薄い透明なビニール袋を持っている状態を想像してみてください。
そのビニール袋の中に涙がたまっていて瞬きをする度に開いている側から涙が流れ角膜の表面を覆って潤してくれます。
年齢とともにこの結膜がゆるんでだぶついてきてしまう方がいます。
この状態を結膜弛緩症といいます。結膜弛緩症になると、例えば下瞼でゆるんできた結膜は上の方に上がってきて、下瞼の縁からはみ出して角膜の上まで飛び出して、下瞼の縁から白目の固まりが盛り上がって見えるようになっています。
この状態になると、結膜の折り返し部分に涙をためることが出来ないため涙があふれて涙目になってします。
でも逆に、折り返し地点に涙がちゃんとたまっていないということは瞬きをしたときに涙が黒目をきれいに覆うことが出来ず、すぐに涙が蒸発してしまいます。
ですから、結膜弛緩症の方の問診票を見ると、「涙が多い」と、「目が乾く」の両方に丸がついている場合がよく見られます。
そのほかに、シブシブする、イズい、目やにがたまる、涙が目尻にあふれるので目尻の皮膚が肌荒れする、といった症状も出てきます。
治療法としては、結膜を引っ張って張りを持たせた状態で強膜に縫い付ける結膜縫合術(けつまくほうごうじゅつ)を行います。
程度の軽い場合には電気焼灼等方法で簡単に行うことも出来ますが、引っ張って強膜に縫い付けることもあります。
程度の重い場合には結膜を一部切り取ってから縫い付ける場合もあります。
涙目だけれど乾き目、シブシブする、朝に目やにがたまっているという方は一度眼科を受診して結膜の状態をチェックしていただきましょう。
高度近視と視力検査
「私、目が悪いから視力は測りたくない」という患者さんが時々いらっしゃいます。
そういう患者さんの多くは「高度近視」の方です。
高度近視は強い度の近視のことで、確かに裸眼視力は良くありません(例えば0.04、0.05など)。
しかし、裸眼視力が悪くても矯正視力がしっかり出れば視力に関して“目が悪い”ということにはなりません。
矯正視力はその人の物を見る最良視力値であり、矯正視力=視力という考え方が眼科では一般的です。
但し、高度近視の人は眼球の作りが大きく、そのため、目の奥の膜が萎縮していたり、薄かったりと正常な目の大きさの人に比べ病気になるリスクが高くなります。
矯正視力の低下は何かの病気のサインかもしれません。
眼科でしっかり視力検査をうけ、自分の矯正視力を知っておくことも、目を守る大切なことなのです。
加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)について
加齢黄斑変性は欧米では中高年の視覚障害の原因の第一位ですが、日本では緑内障や糖尿病網膜症がその上位で、あまり注目されていませんでした。
近年、日本でも患者が増加し、滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性に対する人工多能性幹細胞(iPS細胞)の網膜移植の臨床研究が世界で初めて始まり、注目されるようになりました。
眼に入ってきた光は、角膜や水晶体、硝子体を通り、網膜の上で像を結び、見ることができます。
この網膜の中心にある黄斑は、重要な細胞が集中し、この部位に障害が生じると、視機能は大きく低下します。
滲出型加齢黄斑変性は、網膜色素上皮の下に病的な新生血管ができ、血液中の成分が漏れ出て、黄斑部の神経網膜が障害されるものです。
その症状は、初期は見ようとする部分がゆがんだり、ぼやけたりし、進行すると急激に重篤な視力低下を起こすことです。
この現在の最も有効な治療は抗VEGF薬療法です。
これは新生血管を成長させる血管内皮増殖因子(VEGF)を抑える薬を硝子体に注射する方法です。
やや高価で継続した複数回の投与が必要な治療ですが、視力の改善の効果があり、有効な治療といえます。
他に光線力学的療法があり、この2つの単独あるいは併用療法が現在行われています。
しかし、病状が進行した場合、治療にかかわらず視機能の改善に限界があるのが現状です。
今回始められるiPS細胞の臨床研究では、患者の腕から採取した皮膚組織を使って、iPS細胞を作製し、網膜に穴をあけて病的な新生血管や色素上皮を取り除き、この部位にiPS細胞から網膜色素上皮細胞に変化させたシートを移植するものです。
これは将来の治療につながるという意味では非常に期待がもたれます。
しかし、今回の研究はあくまで安全性に関する研究であり、視機能の改善の検討はその先になります。
現状を冷静にとらえて、早期に病気を発見し、現在の治療を開始、継続することが重要と考えます。
虫さされにご用心 〜マダニと重症熱性血小板減少症候群〜
城岱スカイラインと言った峠道をドライブすることがあります。
七飯本町から大沼に抜けるとっても景色の良い道です。
すると、道ばたに止まっている車がいます。
何をしているのか不思議だったのですが、どうやら山菜採りをしているようです。
そういう方が、眼科を受診することがあります。
目の縁に虫が付いているというのです。
診察してみると、確かに茶色い虫が付いていますが、皮膚からは胴体が垂直に出ていて足がもぞもぞと動いていることがあります。
マダニです。マダニは通常2mmくらいの小さな虫ですが、皮膚は硬く、なんといってもその強力なあごを皮膚に差し込んで体を固定するため、手で抜こうとしても簡単には取れません。
皮膚にくっついたまま、人間の血を吸うため体がだんだん大きくふくれあがってきます。
下手に抜こうとすると、あごを皮膚の中に残したまま頭部がちぎれるため、残った頭部のため皮膚が炎症してきて、赤く腫れ上がってきます。
アルコールや消毒液をかけるとマダニがいやがって皮膚から離れていくという方法もあるようですが、必ずしも成功する方法ではないようです。
眼科を受診した場合、手術用のベッドに横になっていただいて、顕微鏡を見ながらピンセットを使って注意深く皮膚から引き離していきます。
ただ、やはり頭部がちぎれてしまうことがあるため、あごが皮膚に残らないように、周囲の皮膚を含めて手術用のメスやハサミを使って取り除かなければならないことも多いようです。
最近、新聞やテレビで良く報道される病気があります。
マダニから感染したウィルスのために嘔吐や下痢、頭痛を引き起こし、最悪の場合死亡することもある<重症熱性血小板減少症候群>という病気です。
山菜採りやハイキングに出かけて、まぶたに何か付いていたら、無理してとらずにまず眼科を受診してみましょう。
弱視予防には、3歳からの視力検査が大事です!!
一般的に、3歳位までは、片目の視力が0.2ずつ位しかありません。
それでも普通に行動しているように見えるため、周りの大人が、子供の視力が悪いことに気付かないことがあります。
その場合、3歳児健診で低視力が発見されて、眼科を受診すればラッキーといえます。
早く見つかれば、弱視になるのを防げる可能性が高いからです。
弱視とは、メガネをかけても視力が0.3未満で、視力が上がらない状態をいいます。
『視力』とは「みる力」と書きますが、きちんと両目を働かせて見せるようにしないと「みる力」はついてこないので弱視になってしまいます。
たとえ片方の視力がいいとしても放置してはいけません。
弱視の治療や訓練(視能訓練)の効果があるのは10歳くらいまでです。
手遅れにならないように、3歳以上ならば、ぜひ早めに、眼科で視力検査をうけてみましょう。
涙道内視鏡(るいどうないしきょう)を用いた新しい治療
冬になると涙が多いと気付かれている方も多いと思いますが、涙の分泌は冷たい刺激でより出やすくなっているからです。
涙目の原因はいろいろあり、調べても原因がはっきりしない症候性流涙症も多いです。
しかし一方で、涙が目から鼻へ流れる道である涙道が詰まった「涙道閉塞症」の治療に「涙道内視鏡」が登場し、従来の治療に比べて、安全で成功率が高い治療が可能となってきています。
以前は、ブジーという針金で手探りで詰まった箇所を開通させていましたが、いまでは「涙道内視鏡」により、モニターを見ながら治療することもできるようになりました。
また最近では、「鼻内視鏡」という鼻から涙道の開口部を見ることのできる内視鏡と組み合わせて治療することもでき、治療法は従来と比べて進歩しました。
気になる症状がありましたらお近くの眼科医に相談してみて下さい。
我慢していませんか?(老眼について)
老眼の症状が出始める時期と、スポーツ選手の引退する時期が同じ位だと考えたことのある人はいるでしょうか?
例えば、野球なら昨年限りでメジャーを引退した松井秀喜が三十八歳、阪神を引退した金本知憲が四十四歳、サッカーで言えば中山雅史が四十五歳と個人差はあるものの、早ければ三十代後半から四十代で引退する選手が多くありませんか?
目も含め肉体的な運動能力が低下し、何らかの変化が出てくるのがこの時期だと考えて良いのではないでしょうか?
では、老眼はどうしてなるのか、また、どんなものなのか?
原因は加齢からくる様々な変化により、ピントを合わせる調節力が低下して近くのモノにピントが合わせにくくなった状態をいいます。
よく間違われるのが、近視は遠くが見えなくて遠視は近くが見えないといわれることが多いので、遠視を老眼という方もいるようですが、それは間違いで全くの別物です。
老眼の初期症状は、近くが見えないというより頭痛・肩こりといった眼精疲労の症状を訴える方が多いです。
特に視力が良く事務作業やパソコンを長時間使う仕事をされる方は早めにその症状に気付くことが多いはずです。
近視の人は老眼になるのが遅いとか、ならないとかいわれる場合もあるようですが、これも間違いでどんな方でも多少の時期の違いはあっても必ず老眼にはなるものだとご理解下さい。
では、最後に老眼になったらどうすれば良いのか?
生活や職場環境にもよりますが、見えなくはないが頭痛や肩こりなどがひどい場合は、早めに近く用の眼鏡の利用をお勧めいたします。
コンタクトレンズを使っている方は少し度数を落として合わせたり、遠近タイプのコンタクトを使ってみる方法もあります。
この場合眼鏡をかけるよりはっきり見えるとはいえませんが、最近は種類も増えていますので、体験など出来る施設で試してみるのも良いかもしれません。
決して治ることはありませんが、物を見るということを、スポーツ選手のように引退する訳にもいきませんので、それぞれのライフスタイルに合わせたアイテムを用いて、我慢することなく、上手く付き合っていきましょう。
糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)
事実、年間約3,000人が糖尿病が原因で視覚障害の認定を受けています。
また、厚労省によると「糖尿病が強く疑われる人」は890万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」は全国に1320万人いると推測されています。
糖尿病による眼の合併症は糖尿病網膜症ですが、急に悪くなるのではなく、初期の単純網膜症から、中期の増殖前網膜症を経て、末期の増殖網膜症に段階的に進んでいきます。
ただ、自覚症状は増殖網膜症まで進行しないと現れ難いので注意が必要です。
単純網膜症とは、高血糖により目の中の細い血管が障害された病期です。
壁が膨らんでコブ状になった血管や、小出血が眼底検査で発見されます。
この段階では、血糖を良好に維持することで網膜症を悪化させないことが可能ですから、眼科で定期的に眼底検査を受けながら、内科治療を継続してください。
血管の損傷がさらに進み血流が途絶え、網膜内に酸素不足の場所ができると、増殖前網膜症です。
まだ自覚症状に乏しい時期ですが、この酸素不足状態を放置すると末期の増殖網膜症に確実に進行します。
至急、レーザー光線による網膜光凝固術を行い網膜の酸素不足を解消する必要があります。
最終段階の増殖網膜症は、正常眼では存在しない新生血管が発生した網膜症です。
この新生血管は壁がもろいため容易に破綻し、眼のなかで出血、視力低下や飛蚊症をひき起こします。
また、網膜がひっぱられ、網膜剥離を起こすこともあります。
失明をまぬがれるためには多くの場合、手術が必要です。
糖尿病網膜症を生涯にわたって悪化させないことは、特に働いている世代にとって容易なことではありませんが、網膜症による視覚障害は日常生活を大きく制限します。
医師のアドバイスに耳を傾け内科の治療をしっかり行い、定期的に精密な眼底検査を受けることが大切です。眼底検査の間隔は個人個人により異なります。
眼科で受け取る『糖尿病眼手帳』に次回来院日が記載されていますので、是非参考にしてください。