症例・治療について
定期手術は1日1症例を基本としている。入院に際してはクリニカルパス(入院治療計画表)を活用し、入院料金の概算を前もって知らせるなど、患者さんが安心して治療が受けられるよう配慮している。
手術に際しては硬膜外麻酔を用い、週術期疼痛管理を行っている。脱肛時は結紮(けっさつ)切除を基本として、ALTA(ジオン硬化療法)の併用も考慮する。
裂肛などによる肛門狭窄ではSliding Skin-Graft(SSG法:肛門のうしろ側の皮膚を肛門内に移動させて肛門を広くする方法)を主要術式として根治する。
肛門・直腸周囲膿瘍は局所麻酔、硬膜外麻酔で排膿・SETON(膿瘍腔にシリコン、生ゴムチューブなどを通すことで、より排膿しやすくしたり、根治術では一次口と二次口を通してしばり、自然治癒力でゆっくり切離する治療法)を行う。
痔瘍根治術では筋間痔瘍はCORE-OUT・SETONを行い、複雑痔瘍はLAY-OPEN・SETONが主要術式となる。
入院期間は2週間程度を目安に置くが、1泊入院、数日の入院など、患者さんの都合に合わせている。
大腸内視鏡検査は年間270〜300症例行っている。大腸がん(年間15〜20症例)、大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎、クローン病等は市中病院の消化器外科医・内科医と相談して治療戦略を練る。
痔の基礎知識
A.痔核(いぼ痔) 肛門を閉じるクッションの役割をしている血管がうっ血していぼ状になったもの。直腸側にできれば内痔核、肛門の外側にできれば外痔核です。B.裂肛(切れ痔) 太くて固い便によって、肛門の出口付近が切れて炎症が起こります。排便時に激しい痛みがあり、便意をがまんして症状を悪化させがち。女性に多い痔です。C.痔ろう(あな痔) 直腸と肛門の小さなくぼみに便が入りこんで細菌感染し、たまったうみを出すあなができる病気です。男性に多く、治療には手術が必要です。 |
■痔と思っていたら、大腸ガンというケースも。お尻からの出血、痛み、腫れ、いぼなど、肛門周囲の病気を総称して「痔」と言っています。
場所が場所だけに羞恥心から受診をためらう方も多いのですが、自己診断は危険です。切れ痔だと診断を受けていた方がクローン病という炎症性腸疾患だったということもありますし、検査をしたら大腸ガンが隠れていたというケースも私のクリニックでは年間20例ほどみられます。
「赤い血なら痔、黒い血なら大腸ガン」という人もいますが、色では診断できません。
もし出血や痛みがあって、市販の軟膏などを数日使っても症状が緩和しない場合は、安易な自己診断は避けてすぐに医師の診察を受けましょう。■痔の大敵は下痢と便秘。肥満もお尻によくありません。切れ痔の原因は主に便秘症です。排便が3日に1回でもスムーズに出ているのなら問題ありませんが、痛みや出血などの症状があれば治さなければなりません。
反対に、痔ろうの原因は下痢です。1日3回、3日以上下痢をすると炎症が起きて痔ろうになりやすくなります。
便利と下痢、その共通点は排便のときに強くいきむこと。そういう意味では、腹圧がかかる肥満もお尻によくありません。
理想の便は、成人の場合、足の親指よりもちょっと細めで、軟らかさは少し茶色くなったバナナくらい。
毎日の食事に気をつけて、食物繊維と水分をたっぷり摂るように心がけなくてはいけません。■治療の流れ痔は虫歯の次に多い国民病。日本人の成人3人に1人は痔を持っていると言われています。
しかし羞恥心がわざわいしてなかなか人にも相談できず、病院にも行けずに悩んでいるという方が多いのではないでしょうか?病院では医師が診察し、患者さんの症状にあわせた的確な薬を処方します。また、痔を予防したり悪化させないための治療法や日常生活においてのセルフケアなどについてのアドバイスをいたします。痔の治療法も劇的に進化し続けており、昔のような「恥ずかしい」や「痛い」などのイメージではありません。治療を行っていく上で手術をおすすめする場合、急いで手術を要する症状以外は最終的に手術する・しないは患者さんの意志です。当院は手術を行う場合、患者さんに安心して当日にのぞんでいただくために、詳しい入院治療の流れを説明しています。
痔に優しい10の心得
- バランスよく食べる。
1日3食。適量の水分と食物繊維を含むバランスのいい食事が大事です。 - おしりはいつも清潔に。
ただし、排便の後のウォシュレットは、サッと洗う程度に。強すぎる水流や長時間の使用はお勧めできません。 - 排便は短時間ですませる。
1回の排便の目安は5分以内です。 - 排便を我慢しない。
便意を感じたらすぐ排便しましょう。 - 便秘を避ける。
便秘になると硬い便になりがちです。 - 下痢を避ける。
下痢はおしりを刺激し、不潔になります。 - 身体を冷やさない。
お風呂はおしりの血行を促します。 - 長時間、同じ姿勢は避ける。
時々休憩をとり、軽い運動を心がけましょう。 - アルコールと刺激物は控えめに。
強い香辛料や過度のアルコールはおしりを刺激します。 - 医師の正しい診断を受けましょう。
出血や痛みがあったら早めに医師に相談するのがベストです。また、痛みのない出血は要注意です。大腸癌の可能性も否定できません。
痔核(ぢかく)~簡単知識~
痔核は、肛門(こうもん)疾患の多くを占め、人類が立位歩行を始めてから、ヒトを悩ませている疾患のひとつです。主症状は出血、痛み、腫脹(はれ)、脱出です。
肛門縁の皮膚にできる外痔核(イボ痔)と、肛門内粘膜にできる内痔核(デ痔)の二つに大きく分けられます。
外痔核の治療は、軟こうや座薬治療が主体です。急性で腫れが大きい時、痛みが強く生活に支障がある時は血栓除去術を行います。
内痔核は、
1度―出血はあるが脱出しない。
2度―脱出するが自然に戻る。
3度―脱出するが押すと戻る。
4度―脱出したままで押しても戻らない。
以上の4つの病期に分類されます。治療は症状の鎮静を含め、全病期で薬物療法が適応となり、局所冷却法も併用されます。手術の適応は病期1~4度で結紮(けっさつ)切除術が主になされますが、様々な工夫により術後の痛みも少なくなっています。また、特殊な器械吻合(ふんごう)器を使うPPH法も痛みが少ない手術法として普及してきています。
痔と直腸がん
いわゆる痔という言葉にはイボ痔、切れ痔などさまざまな病態が含まれています。ここでは各病態の説明は割愛しますが、ある程度の年齢以上の人間であれば、程度の差はあるものの痔疾があると考えてもらって良く、決して恥ずかしいと思う必要はありません。しかも生活習慣の改善や適切な薬物治療により、手術をしないで症状が治まる方がほとんどです。怖いのは痔と自己判断して症状があっても、肛(こう)門科を受診されない方です。
進行直腸がんの約60%の患者さんは、痔と思って放置されていて、症状が重くなってからやっと肛門科を受診される方です。専門医であれば外来における簡単な診察で、70~80%の直腸がんは診断でき、内視鏡検査をすれば、ほぼ100%診断可能です。ご家庭で痔かな?と悩まれるなら、ぜひ専門医にご相談されることをお勧めしま す。
裂肛(れっこう)[きれ痔]
便秘がちな女性に多くみられる痔です。主に硬い便を無理して出した時に、肛門が裂けて出来ますが、激しい下痢(げり)でも出来ることがあります。
症状は、排便時の出血と痛みです。初めは軽い痛みですが、くり返すと次第に痛みが強くなります。痛みが強くなると、便意をがまんする様になる為、便秘になり、ますます便が硬くなります。この硬い便が出る時に、また切れるという悪循環をおこします。
更に肛門の弾力性が失われる為に、肛門が硬く、狭くなり便も出にくくなります。慢性化し、肛門潰瘍(こうもんかいよう)になると排便後も強い痛みが長く続く様になり肛門ポリープ等も出来てきます。
この様な状態になると手術が必要になりますので、早めに治し、くり返さない様にすることが大切です。
痔核(じかく)・イボ痔
痔核には、肛(こう)門の内側に出来る内痔核(ないじかく)と外側に出来る外痔核(がいじかく)がありますが、治療を必要とするのは大半が内痔核です。内痔核の主な症状は、排便時の出血と肛門からの脱出です。
程度により、1~4度に分けられます。
第1度:痔核の脱出はないが、出血する。
第2度:痔核は脱出するが自然に元に戻る。
第3度:脱出した痔核は指で押し込まないと元に戻らなくなる。
第4度:指で押し込もうとしても元に戻らず、いつも外に出た状態(脱肛:だっこう)になる。
第1、2度は生活習慣の改善、坐剤(ざざい)療法、冷却療法。第3、4度は硬化療法(ALTA療法)、手術療法が中心になります。