耳鼻科医のつぶやき
日常診察で耳鼻科医が困ってしまう疾患を二つ挙げてみましょう。 一つは、のどに何かがつかえている、ひっかかっている感じがする。
これは咽喉頭異常感症と言います。
診察しても器質的には何もないので、何ともないと話しても患者さんは納得してくれません。
多くの場合、患者さんはのどにがんができているのではないかと思い悩み、おそるおそる来院します。 この疾患の特徴は、食事中や何かに集中しているときは気にならないことです。
50歳前後の更年期の女性に圧倒的に多く見られます。 更年期なので仕方がないというと怒る方もいますので、慎重に顔色を伺いながら原因となるさまざまな要素、例えば鉄欠乏性貧血や胃下垂はないかと聞き出していくわけです。
十分説明し、画像を供覧することで安心させてやることが一番の薬だと思います。 しかし、実際はかなり困難で、こちらも穏やかな気持ちで真摯(しんし)な態度で時間をかけて接しなければならず大変な労力を費やすことになります。
へたをすると患者さんと医師との信頼関係は崩れ、口論となってしまいます。
説明を聞いて安心したと言って帰っていただくまで気は抜けません。 同じ症状の患者さんが続いてこられますと疲れは頂点に達し、また同じ話を最初から始めなければなりません。
テープに録音しておいて渡して終わりにしたくなることもありましたが、そうはいきませんよね。
同じ症状でも患者さんは一人ひとり違うんですから。 もう一つ困ってしまう疾患に舌がピリピリする、舌が痛むと申す患者さんがいます。
これは舌痛症と言います。
これも器質的には何もできてはいないのですが、本人は痛いので何とかしてくれと申します。 原因としては現在内服している薬の副作用や義歯が合わないためなど考えられ、よくお話を聴いてさしあげるしかないのですが、すぐには治りがたい疾患なので苦労します。
耳鼻科医は外科医でもあり内科医神経科医の両面を持っていますが、神経科医的な立場にある時こそ、しっかりしなければいけないと日々心掛けてはいるのですが…。 私の診察室に1枚の大きな教会の絵が壁に掛かっています。
10数年前に亡くなった叔父の遺作です。
その絵の中からいつも叔父が私を見つめていて、仕事でいらついたり、患者さんに冷たく当たったりする自分を怒鳴りつけて説教してくださるんですよ。
真面目にヤレと!
耳あかとさまざまな症状
耳にはいろいろなツボがあることはよく知られています。
神経支配の話は難しいので省略しますが、耳あかが、耳の穴を圧迫することでいろいろな症状が現れます。
例えば難聴、耳閉感、耳鳴り、神経過敏、めまい、神経痛、けいれん、意識混濁、運動障害、頭重感、おう吐、せき、禿(ハゲ)―が挙げられます。 まさかとお思いでしょうが、実際耳あかを取ってそれらの症状が消失した話が世界中であり、発表されています。
私も最近経験した患者さんがおります。 かなり長いことせきが止まらず、呼吸器内科を受診しても何ともないと言われ、夜間もひどいせきで目が覚めてしまうという70歳くらいの男性です。
最近耳の聞こえが悪くなったということで当院を受診しました。
耳の中をまず診ましたところ、両方の耳に真っ黒い硬い耳あかがぎっしり詰まっていましたので、きれいに取り除きました。
患者さんは、良く聞こえるようになったと喜んで帰っていきました。 それで診察は終了したはずなのですが、翌朝また来院しました。
今度は何だろうかと尋ねましたら、患者さんが申すに、昨夜はせきも出ず、ぐっすり眠れたとのことで不思議なので私に話を聞きに来られたのです。
詳しく耳あかとせき反射の話をしました。
今まで、どんなせき止めを飲んでも止まらなかったせきが1日で止まり、久し振りに熟睡できた―と大変喜んでおりました。 数ケ月後再度来院しました。
その時は奥様も一緒にいらして申すには「うちのダンナ、最近何だか髪の毛がふさふさしてきた、若返ったみたいだ」というのです。
そう言われてみると、数ケ月前よりも黒々とした髪の毛が増えているではありませんか。
せきは止まるし、ハゲも治ったと大変喜んでおります。 今でも定期的に耳あかを取ってくれと来院しており、すこぶるお元気です。 海外の文献を見ても多くの症例があります。
永年、食後におう吐していた女性で、どこの内科に行って精密検査しても原因が分からなかったのが、耳あかを取った途端、おう吐しなくなった例や、めまいがひどく歩行障害があった女性が耳あかを取ったら治った例などたくさんあるのです。
うそのようで本当なんですよ、これが。 ですから耳あかをなめたらいけませんよ。
必ず耳の中を診てもらうことをお勧めします。
ハゲ、せきなどで悩んでいる方はどうか耳鼻科に行って耳の中を診てもらってください。
耳の穴、耳あかの基礎知識
耳の穴は「成人」は約3cm、小児では約2cmくらいあります。
その末端が鼓膜になっています。耳の穴の皮膚は人間の体の中で一番といっていい程とても薄く、ちょっとした炎症でもかなり痛みを感じます。 耳の穴は真っ直ぐな円筒と思われているでしょうが、実は鼻のある方へゆるやかに湾曲しています。
概して耳掃除の時に痛いと感じるのは耳の穴の後ろの壁を突いているためです。
耳の穴の解剖学的知識があれば、痛くなくきれいに耳掃除ができるはずです。 綿棒などを耳の穴に入れる場合は耳介(じかい=耳のへり)を上後方へ引っ張るようにしておいてからだと耳の穴が真っ直ぐになりうまくいきます。
現在ペンライト型のものが売られていますので、明るくして良く観察しながら掃除することをお薦めします。 耳あかは湿ったものと乾いたものの2種類があります。
この違いは耳垢を作るアポクリン汗腺とエクリン汗腺の2種類の腺の量によります。
アポクリン汗腺の量が多い人は湿ったベタベタした耳あかになります。
ベタベタだからといって決して病気ではありませんが、心配して来院する方も多いようです。 アポクリン汗腺は脇の下にもあり、匂いを出す腺でいわゆるワキガの原因となります。
これは西洋人に多く見られる特徴で、フランスなどで香水が発達普及したのはそのためだといわれています。
日本人を含め東洋人では比較的乾いた耳あかの人が多くを占めています。
余談ですが、湿った耳あかの人であれば、より西洋人に近い体質と考えて良いでしょう。 耳あかの性状は遺伝します。
両親のどちらかが湿った耳あかであれば、子供さんのうちの何人かはやはり湿った耳あかになる訳です。
何度も言うようでうが、湿った耳あかだからおかしいとか病気だとか考えられては困ります。仕方ないことなのです。
実際の話ですがご主人に「お前の耳あかは俺のと違い変だから病院に行ってこい」と言われ来院した主婦がおりましたが、全く心配ないことなのです。 また、耳あかのたまりやすい人たまりにくい人、右と左でたまり具合が違う人など、これらは個人差の問題で何の心配もありません。ご安心ください。
鼻の調子が悪く、いつまでも治りません。単なる風邪ではないのでしょうか?
症状が2週間も続くならアレルギー性鼻炎の可能性も。
子どもの場合には続発する中耳炎も心配。早期受診が大切
冬といえば風邪の季節ですが、その中で一見風邪の症状だと思っていたものが、実はアレルギー性鼻炎による症状の悪化である場合が意外と多く見られます。
風邪だと思っても、症状が2週間も続くようであれば何らかの慢性的な状態が考えられます。
また、必ずしもアレルギー性のものではない場合もあるため、いずれにしても医療機関で検査してみる必要があります。 通年性のアレルギーは基本的にハウスダストやダニが原因で、すでに鼻は過敏な状態にあります。
そこに冬場は寒暖差や湿度差が激しいなどの物理的刺激が多くなるため、鼻の調子が悪くなりがちになるのです。
経験的に秋口から寒くなって、乾燥が進む季節に入ると調子を悪くして不安定な状態に陥る人が多いので、その季節から注意が必要です。
ただアレルギー性鼻炎の発症を予防することは難しく、すでにアレルギー性鼻炎と診断されている人であれば、事前に薬を飲むなどの対策もとれますが、既往症がない人ではいかに初発症状を見逃さず、少しでも早く専門医を受診することが大切といえます。 特に注意しなければならないのは、子どものアレルギー性鼻炎で、意外と放置された状態のままの子どもが多いのです。
鼻の状態が悪いと風邪をひきやすく、またアレルギーなどで鼻の状態が常に悪ければ、いずれ鼻の機能がまったく失われてしまいます。
例えば鼻から空気を吸った際に、鼻の中で粉塵(ふんじん)や細菌を取ったり、空気を加湿化し肺に送るという大事な機能がまったく破綻してしまうわけです。
当然あらゆる感染症にも罹りやすくなってしまいます。 さらに鼻の状態が悪いと、結果的に中耳炎にも罹りやすくなるのです。
中耳炎が子どもに多いのも、そういったことが関係していて、多くの場合、風邪から鼻の調子を悪くしてしまい、続発的に中耳炎を起こしているのです。
そのため中耳炎の発症も冬場に多く見られます。
その意味では、中耳炎の治療のポイントは、鼻の状態のコントロールにあるということがいえるわけです。
また、治療には抗生物質の適切な使用が重要です。
一般的風潮として抗生物質は敬遠されがちですが、特に幼少期に起こす中耳炎や鼻炎の細菌の種類は決まっていますので、その動向を見極めて適切な抗生物質を選び使用することで、それぞれの症状も速やかに改善されます。 耳鼻科は基本的に感染症外来です。風邪も感染症ですので、鼻の調子が悪いなどの症状が長く続く場合や、特に学童期以下の子どもの場合には、まず耳鼻科への受診をお勧めします。
扁桃腺(へんとうせん)が大きいと言われたことないですか?
一般的に扁桃腺(扁桃)と言われているものは正式には口蓋(こうがい)扁桃といいます。
ほかに咽頭(いんとう)扁桃、舌根扁桃、耳管扁桃という扁桃があります。
その中で特に肥大を起こすものは口蓋扁桃、咽頭扁桃、舌根扁桃です。
扁桃は一定の年齢で大きくなるものです。
口蓋扁桃は7〜8歳、咽頭扁桃は6〜7歳、舌根扁桃は50〜60歳代で肥大がピークになると言われています。
では扁桃が大きいとどんな影響があるのでしょうか。
口蓋扁桃、咽頭扁桃は幼少期に肥大します。
扁桃肥大が原因となる病気としては睡眠時無呼吸があります。
いびきがひどく、無呼吸があるお子さんは扁桃肥大の可能性があります。
また、舌根扁桃の肥大はちょうどガン年齢と重なるために舌の奥の腫瘍だと思い込み、ガンではないかと不安になってしまうことがあります。
扁桃肥大があるからといって扁桃炎を起こしやすくなるということはありません。
痛くない中耳炎(ちゅうじえん)~滲出性(しんしゅつせい)中耳炎~
今回は滲出性中耳炎という「痛くない中耳炎」で滲出液という液体が貯まってしまう中耳炎についてお話します。
滲出性中耳炎は小学校入学前のお子さんとお年寄りに多い病気です。
症状は軽い難聴や耳閉感(耳がつまった感じ)ですが痛みがないため気づきにくく放置されていることがよくあります。
主に風邪、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎などで鼻と耳の交通が悪くなって耳の換気が悪くなることで起こります。
鼻の調子が悪い状態が続いているお子さんは滲出性中耳炎になっている可能性があります。
鼻の病気に伴って起こることが多いので鼻の状態を的確に把握して鼻の治療をしっかり行うことがポイントです。
多くは薬で改善しますが改善しない場合は鼓膜切開や鼓膜換気チューブ留置を行うこともあります。
心当たりのある方は耳鼻咽喉科を受診されることをお勧めします。
真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)ってご存知ですか?
中耳炎と言えば痛い急性中耳炎や耳漏(じろう)が続く慢性中耳炎をイメージされる方が多いと思いますが、今回は中耳炎の中でも注意を要する真珠腫性中耳炎をご紹介したいと思います。
真珠腫とは真珠様の光沢がある耳アカのようなものが耳にできる病気です。
周りを破壊しながら大きくなるという性質があり決して良性とはいえない病気です。
進行すると顔面麻痺、めまい、脳膿瘍(のうのうよう)など重大な合併症を引き起こします。
初期の症状は難聴、耳漏ですが一般的な治療で耳漏がなかなか治まらない場合には真珠腫の存在を疑う必要があります。
観察顕微鏡を用いた診察で簡単に見つけることができます。
真珠腫を除去する処置で経過を診ることも可能ですが除去できないときは手術が必要になります。
耳漏がなかなか治まらない方は一度、お近くの耳鼻咽喉科医院で相談されてはいかがですか。
花粉症 ~正しい治療をしましょう
春先になりますとテレビや新聞などでスギ花粉症が話題となり、飛散予報や対処法が紹介されたりします。
北海道ではスギ花粉症はあまりなじみがないかもしれませんが、道南地域にはスギがありますので花粉症に悩まされる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
スギ花粉は函館周辺では例年3月下旬から飛び始め、4月上旬から中旬にピークとなり4月いっぱいで終わります。
花粉症治療でのポイントは帰宅時に花粉を払い屋内に持ち込まないこと、薬物療法をしっかりと行うことです。
花粉症の治療では症状が出る前から服薬などで治療を始める方が、症状が軽くすむことがわかっていますので、シーズン前に治療を始められることをおすすめします。
5月からはイネ科花粉(カモガヤ、オオアワガエリ)が飛び始めます。しっかりと備えましょう。
花粉症と予防
花粉症とは、草木から飛び散った花粉が鼻や目に入り、アレルギー性反応(過敏性反応)を起こす病気です。花粉(抗原)が繰り返し入る(曝露)ことで、徐々にその花粉抗原にのみ反応するもの(抗体)が作られていきます。たとえば、スギ花粉症の方では、体内にスギにのみ反応する抗体がつくられていて、スギ花粉が体内に入ることで、さまざまな反応(くしゃみ、水溶性鼻漏、鼻閉の症状)を引き起こします。これらの症状は、鼻に入ってきた花粉を吹き飛ばし(くしゃみ)、鼻粘膜表面に付着した花粉を洗い流し(鼻汁)、さらなる花粉の侵入を防ぐ(鼻閉)といった防御反応ともいえます。このような花粉症の症状は原因抗体である花粉の飛散時期にのみ認められるわけですから、毎年のようにほぼ同じ時期にくしゃみ、鼻汁、鼻閉、目のかゆみなどがみとめられます。
スギ花粉症は、すでに本州では始まっておりますが、函館地方は3月下旬から4月下旬にかけて花粉が飛びます。その後、4月中旬からシラカバ、ハンノキ、ナラなどの樹木、5月中旬よりカモガヤなどのイネ科植物の花粉も飛ぶようになります。
花粉症の予防は、まず花粉を回避することが大切ですので、
1.花粉情報に注意する
2.飛散の多いときは外出を控える
3.飛散の多いときは窓、戸を閉めておく
4.飛散の多いときは外出時マスク、メガネを使う
5.外出から帰宅したら、洗眼、うがいし、鼻をかむなどに注意して下さい。
また、花粉が飛散する2~3週間前より、抗アレルギー剤を予防服用することにより発症が抑制されます。あらかじめ、耳鼻科医を受診されて御相談してください。