産科医療補償制度
平成21年1月1日より産科医療補償制度が始まりました。
お産の時には予期せぬ事が起きてしまうことがあり、何らかの理由で重度の障害を持った赤ちゃんが生まれてくることがあります。
そういう赤ちゃんを持たれたご家族は、精神的にも肉体的にも経済的にも大変なことになります。
この制度は、そういうご家族に経済的に援助しようというものです。
通常の妊娠、分娩にもかかわらず分娩に関連して、また常位胎盤早期剥離などの予期せぬ疾病などにより重度脳性麻痺となった赤ちゃんが補償を受けられます。
重度脳性麻痺の発症原因が分析され、再発防止に役立てられることによって、産科医療の質の向上がはかられ、安心して赤ちゃんを産める環境が整備される事をめざしています。
この制度は、分娩を取り扱う病院、診療所、助産所が加入し、その分娩機関において、出生体重2000gr以上で妊娠33週以上。
または妊娠28週以上で所定の要件に該当した場合で身体障害者傷害程度1級または2級相当の重度脳性麻痺となった場合に補償の対象となります。
但し、先天性の要因での脳性麻痺は対象外です。
補償の対象と認定された赤ちゃんには看護、介護のため、
一時金600万円と20年間毎月10万円、計300万円が支払われます。
妊婦さんは全員この制度に加入登録が必要となります。
登録すると登録証が交付され、この登録証がなければ補償の対象となりません。
この手続きには登録料として3万円が必要となり入院料に加算され、医療機関がお預かりして保険会社に支払います。
そのため分娩後に支払われる出産育児一時金が今年1月1日より3万円引き上げられ38万円となりました。
お産の話
少し前の話になりますが、福島県立大野病院での癒着胎盤による妊婦さんの出血死に対する判決が新聞にも掲載されました。
ここではそのことではなく、まだお産で死亡するという事についてお話したいと思います。
日本では1950年には4117人の妊婦さんが亡くなっていましたが、1994年以降は70人前後と減ってきています。
母子保健活動による意識の向上と、産科学の進歩によるものですが、お産では予測できない突発的に起こるものがあるため、まだ“0”にはなっていません。
我が国では出生数10万につき6前後、欧米先進国の中では少ないところで4-5というところもあります。
死亡の原因の1位は出血。
ついで頭蓋内出血、「妊娠中毒症といわれていた」妊娠高血圧症候群の3つが多く、あと肺血栓塞栓症、羊水塞栓症、つわり、流産などです。
出血は常位胎盤早期剥離、子宮破裂、弛緩出血などによるもの、またそれにより起こる血管内血液凝固症候群。
妊娠高血圧症候群では、重症となることで起こる合併症子癇、胎盤早期剥離、肺水腫が問題となります。
また、妊娠高血圧症候群では子宮内胎児死亡や胎児の発育遅延を起こします。
妊娠、分娩は常に危険と隣り合わせなのです。
これを防ぐのは定期的に妊娠検診を受けることです。
放っておいても10ヶ月経てば元気に生まれてくると思っていると、とんでもないことになることもあります。
医師、助産師の言うことをきちんと守ってください。
子宮体部癌
以前、子宮頸膣部癌について書きましたが、子宮のもう一つの悪性腫瘍である子宮体部癌のことを書いてみます。
最近子宮癌検診で体部癌も希望される方が増えています。
これは30年前には頸癌が90%、体部癌が10%だったのに最近は体部癌が35%を超えるようになってきたためと思われます。
癌検診の意義は何も症状がないうちに、いかにはやく癌を見つけるかというところにあるのですが、子宮体部癌では、この癌に特有の危険因子があり、この癌になった人の90%以上の人が癌がみつかった時、あるいはその6ヶ月以内に、不正性器出血が認められています。
未婚。不妊。初婚、初妊年齢が高い。妊娠回数、出生児数が少ない。
30才以降の月経不規則。卵胞ホルモンの服用歴。などが危険因子といわれています。
この事から老人保健法では、最近6ヶ月以内に不正性器出血があった人で、
- 50歳以上
- 閉経以後
- 未妊娠で月経不規則
のいずれかに該当するひとを子宮体部癌検診の対象者とする。
但しこの条件に該当しないひとでも、医師が必要と認めた人。
とさだめられています。
欧米で子宮体部癌の3徴といわれている、肥満、高血圧、糖尿病は、日本ではあまり関係ないとされていましたが、最近の子宮体部癌の増加とともに関連があるといわれています。
また40歳以下の若年体癌も増えてきています。
30歳以下の子宮体部癌では、全例未妊娠であり、91%に不正性器出血、月経異常を認め、60%に多嚢胞性卵巣を認めている。
このことから30才以下の体癌には排卵障害に起因する月経異常、不正出血が特徴です。
50歳以上が圧倒的に多い子宮体部癌ですが、若いからこんなことはありがちとか婦人科にいくには恥ずかしいとかいわずに、受診して下さい。
子宮癌検診を受けよう
最近子宮癌検診の受診率が下がってきています。
それと共に子宮癌も増えてきています。
2年前から、癌検診への市の補助の制度が変わりました。
30歳以上の函館市民は、毎年受けられたのが、20歳からになり、2年に一度に変わりました。
北斗市も同じです。
子宮癌には子宮頸膣部癌と子宮体部癌「内膜癌」があります。
子宮頸膣部癌は予防可能な癌です。
それは癌になる前の状態がわかっているという事です。
癌検診を定期的に受けることでその段階で見つけて治療することができ、癌の発症を防ぐ事が出来るからです。
またパピローマウイルスが子宮癌の発生に深く関わっていることが分かってきました。
このウイルスは最も頻度の高い性感染症で、20代女性の40-60%が感染しているといわれています。
性感染を起こすパピローマウイルスには40程度のタイプがあり、尖圭コンジローマの原因となるローリスクタイプと、子宮頸癌に関連するハイリスクタイプがあります。
ただしこのウイルスによる性感染は、ほとんどが自然に消失し、ごく一部のハイリスクタイプが感染を持続し癌の発症に関連します。
2006年にアメリカでこのハイリスクタイプに対するワクチンが開発認可され、これにより子宮癌を予防する事が出来るのではと期待されています。
子宮体部癌は毎月定期的に月経がきている方は、殆どならない癌で月経が極端に不規則な方、閉経前後の方になる癌で、閉経前後に不正性器出血のある方の3割がこの癌であると言われています。
この時期に出血したらその都度検診を受ける事が大事です。
妊婦の救急搬送
先日奈良での妊婦の受け入れ拒否による、たらい回しがマスコミで取り上げられていました。
札幌や他の地域でもあったとの報道で、函館はと心配している妊婦さんもいらっしゃるかも知れません。
函館では、夜間の救急体制はしっかりしていて、今のところは受け入れを拒否された事例は起きていません。 夜間妊婦さんに、なにか異常が起きれば、診てもらっている産科に連絡、診察してそこで対応できない時は、対応できる病院に移送してくれます。 まだどこにも診てもらっていない方は、8.00p.mから0.00a.mの間は、毎日どこかの産婦人科が交代で対応、それ以後は救急指定の病院が診ています。 妊娠が疑われる時は、早く産婦人科を受診する事が大事です。 なぜこのような事が起きるのでしょう。 産科医の減少により分娩できる施設が減った。
そのため分娩が集中し、ベッドが空いていない、忙しくて手が回らないということだと思います。 函館でも周産期センターでは、産科医は月8回前後の当直をし当直あけも休まず日中の業務をこなし、32時間働いています。
未熟児センターも欠員が出て二人で頑張っています。 これらの先生方の頑張りで周産期救急医療がようやく成り立っている現状をどう打開していくのか。
帝王切開
分娩には、膣からのお産と、お腹を切る帝王切開があります。
- 骨盤の大きさが、赤ちゃんの頭より小さい。
- 胎盤が子宮の出口をふさいでいる前置胎盤。重症妊娠高血圧症候群。
- 常位胎盤早期剥離。
- 骨盤位「さかご」。
- 分娩中に赤ちゃんの心拍が下がって、児の生命が危険になったとき。
- 分娩の進行が、途中で止まった時。
- 破水して陣痛が付かないとき。
- 前回の分娩が帝王切開だった。
等の時帝王切開となります。
30年以上前には帝王切開は5%前後で、10%もあればその施設はおかしい、切りすぎだと言われていましたが、現在は10ー20%は普通で、ハイリスクの妊娠分娩を扱う周産期センターなどでは40%を超える施設もあります。
これは麻酔の進歩。術式の変化。手術材料の進歩などにより手術が安全になってきたこと。
社会情勢の変化により、陣痛の痛みに対する恐怖から。
不妊治療の進歩により妊娠できた妊婦さんや、高年妊婦のようやくできた大事な児を安全に産みたいということで、帝王切開を希望する方が増えていること。
また医療訴訟の増加から医師が無理をしなくなった事が増加の理由です。
上に述べた帝王切開の適応の中で、骨盤位。前回帝王切開については従来より意見の分かれているところですが、骨盤位に関しては2000年に大規模な比較対照調査の結果が発表になり、明らかに帝王切開の方が、児の経過がよいと言う結果が出て流れとして骨盤位は帝王切開となっています。
前回帝切後の経膣分娩については、問題は分娩中に子宮破裂がおきる可能性が0.5ー1%有るということです。
破裂がおきる前に知る方法はなく、おきてしまったら、児の死亡率も高く、子宮を取ることも多く、母体も危険になることから、またトラブルが起きた時の訴訟。警察の介入などで、反復帝王切開がまた増えてきているようです。
帝王切開には、
- 手術中の出血。
- 隣接臓器の損傷。
- 感染。
- 術後の血栓形成による肺塞栓
などのリスクがあり、今でも日本での妊産婦死亡の大きな原因の一つとなっています。
診察室で
婦人科は一番受診しづらい病、医院のようです。
ではどういう事で来られるのでしょう。
下腹の痛み、頭痛、おりものが多い、臭う、かゆい、月経の異常。
「遅れている。量が多い。少ない。不規則。痛い。期間が長い。短い。」月経と違う出血がある。
妊娠、不妊、外陰部のできもの、前の病院での診察の結果への確認、治療法の確認、などです。
医師はまず、症状は、月経は何時有ったのか、今飲んでいる薬は、妊娠、分娩の経験は、と聞いていき、その後検診台で外陰を見て何か出来物が出来ていないか、ヘルペスやコンジロームの有無を見て赤くただれていないかを見ます。
次に膣の中を見ておりものの状態を見て必要に応じて細菌の検査、クラミジア、トリコモナス、カンジダの検査。膣粘膜、子宮膣部を見てポリープの有無、子宮癌検査等をします。
次に内診。経膣超音波で子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣腫瘍、妊娠、子宮外妊娠等を調べます。
その結果を話し、こういう病気があります。
こういう事が疑われるので、尿検査、血液検査、ホルモンの検査、レントゲン検査、MRI、CTなどの検査も必要ですと話します。
治療はこういう風にします。
あるいはいくつか治療の方法があります。それぞれの長所、短所、その方の生活環境などから、どれが今いいのかと話していきます。
大事なことは自分が納得いくよう分かりやすく説明してもらう事です。
納得できない、理解出来ない時は他の医師を受診する事も必要です。
もちろん症状や年齢などにより、内診せずにお話だけや、他の検査だけで済ませる事もあります。
妊娠時の栄養
今年2月に厚生労働省より、妊産婦のための食生活指針が発表されました。
以前との違いは、
1.エネルギー摂取量がふえた。
2.妊娠を初期「16週未満」中期「16週-28週」末期「28週以降」
に分けそれぞれの時期毎に摂取量を決めています。
普通の生活をおくっている18〜29歳では、
- 初期2100Cal
- 中期2300Cal
- 末期2550Cal
30〜49歳では、
- 初期2050Cal
- 中期2250Cal
- 末期2500Cal
となっています。
これは20歳代、30歳代の女性の朝食を食べないひとが20年前に比べ約2倍近く増えている事。
BMI18.5以下の低体重の女性も同じくらい増えている事。
妊娠中の栄養の摂取も十分ではなく、胎児神経管傷害リスクの軽減のための葉酸の摂取も不十分な事。
低出生体重児の割合が増加している事が理由となっています。
出生時の低体重がその児の将来のメタボリック症候群、虚血性心疾患と関連していることがわかっています。
妊娠中の体重抑制が妊婦高血圧症候群(妊娠中毒症を今はこういいます。)の予防にはならず、むしろ低出生体重児を増加させていると考えられています。
このため妊娠中の推奨体重増加量も設定され、
低体重[BMI18.5未満]で9-12kg。
普通[BMI18.5-25.0]で7-12kg。
肥満[BMI25.0以上]は個別に対応となっています。
食べ過ぎてもだめ。食べなさすぎてもだめとなっては妊婦さんもたいへんです。
自分でカロリー計算して献立を作れる人はそんなににいないとおもいます。
肥満の人以外は一週間に0.3-0.5kgの増加と考えて下さい。
それ以上増えるようならカロリーの取りすぎと思って下さい。
よくわからなければ通院している病院の先生、助産師、栄養士に相談する事です。
尚、BMIとは標準体重のことです。体重kg÷(身長m)×(身長m)であらわします。
妊娠と薬
妊婦さんから受ける質問で多いものに薬の事があります。
妊娠中の薬の服用に関して、サリドマイドによる薬害「サリドマイドという睡眠薬やサリドマイドを含む胃腸薬を、最終月経より32日目以降52日までに服用した妊婦さんが、特有の特徴をもった奇形児を出産した。」後、医師も一般の人達にも慎重を要する事が認識されて来ました。そのため妊娠がわかる前に知らないで飲んだ薬のために中絶を希望される方もいます。
また、妊娠がわかった後で治療が必要になっても、産科医が処方する薬まで拒否する方もいます。
妊娠中に頻繁に使用する薬は消炎、鎮痛薬、総合感冒薬、抗生物質、胃腸薬、抗ヒスタミン薬などです。
これらの薬には催奇形性はありません。
但し、鎮痛薬には妊娠末期に使用すると、胎児循環に悪影響を及ぼすことがあります。
産科医が薬を処方する時は、その薬の胎児への影響、妊娠がどの時期かを考慮して処方します。
妊娠4週から16週までが一番慎重を要する時期、特に4週から7週末までが胎児の中枢神経、心臓、消化器、四肢などの重要臓器が発生。
分化し催奇形という意味でもっとも重要な時期です。
妊娠がわかる前に使った薬、他科の先生が処方した薬などが心配であれば、薬の名称、内容が書かれた箱、薬の入れものなどを持って産科医に相談してください。
慢性の内科疾患、糖尿病、甲状腺疾患、高血圧、膠原病、やてんかん、精神科疾患などで薬を常に服用している方は、妊娠してから悩むのではなく、妊娠を希望するのであれば、主治医の先生にその薬を服用したままで妊娠していいのか相談してから妊娠するようにしてください。
妊娠と出血
妊娠中に出血して、びっくりして、また心配になり、あわてて産科を受診することがあります。
出血は初期には流産、子宮外妊娠、胞状奇胎、後期には早産、前置胎盤、常位胎盤早期剥離等でおき、妊娠以外の原因として、子宮頸管ポリープ、頸管炎、膣炎、子宮膣部びらん、子宮癌があります。
妊娠中、全妊婦の約25%がごく少量からそれなりの量まで出血するといわれています。
その大部分が妊娠10週までにおきます。
現在は超音波診断(エコー)により流産、子宮外妊娠、胞状奇胎、前置胎盤、常位胎盤早期剥離は診断できます。
流産は妊娠22週までをいい、それ以後を早産といいます。
流産は12週までは胎児因子、胎芽、胎児の染色体異常や発育異常が大部分を占め、それ以降は母体因子、感染(絨毛膜洋膜炎、子宮の感染)や頸管無力症などが原因となります。
子宮外妊娠は受精卵が子宮以外、多くは卵管に着床することによりおきます。
週数が進み大きくなると、卵管が破れお腹の中で出血し、急激な腹痛とともにショック状態になり、母体の生命にかかわることもあります。
原因はクラミジアなどによる卵管の炎症などです。
早産は膣内の細菌が子宮の頸管にはいりこみ頸管炎をおこし、その炎症が赤ちゃんの入っている袋に波及して絨毛膜洋膜炎をおこすことによりなります。
前置胎盤は胎盤が子宮口を覆っているものをいい、そのまま分娩が開始すれば大出血をおこし、母体の死につながることもあります。
超音波断層にて診断でき、妊娠の検診をきちんとうけていれば心配ありません。
常位胎盤早期剥離は分娩前に、胎盤がはがれることをいいます。
突然の腹痛とそれに続く持続的子宮収縮で始まる事が多く、妊娠中の異常で一番恐いもののひとつです。
胎児はほぼ死亡。母体も危険な事が多い疾患です。
出血やそれに伴う腹痛がある時はすぐ産科に連絡し診察を受けることが大事です。