便秘と下剤のお話
ここで取り上げる便秘
今まで毎日トイレでスッキリしていたけれど急に排便が困難になったとういう場合は大腸癌やポリープなどの本物の病気が原因である可能性があるので、ここでのお話の対象外です。そういう方には大腸検査をお勧めします。また便秘と同じくらい下痢をするという人は多分、過敏性腸症候群といわれる状態ですのでこれもお話の対象外です。そうではなくて「何年も便秘が続いている」といったいわゆる慢性便秘がこの話の本題です。便秘とは?
さて、何日便が出なければ便秘と言うのでしょうか?これについて万人に受け入れられる答えは無いと言って良いでしょう。5日間排便が無くても自分が便秘だと思っていない人もいれば、毎日排便がなければ便秘だと思う人もいます。教科書にも「○日排便がなければ便秘である。」といった明確な線引きはありません。教科書的には便が出ないことによって何らかの症状がある状態が便秘であるとされています。 その症状とは、
- 便が出てもスッキリしない
- 便が出ないで何日かするとお腹が張ってくる。
- さらにおなかが痛くなる。
- かなり息まないと排便できない。
などです。
こういった症状があるときは治したほうが気分が良くなる便秘と言えます。
便秘の原因
多々ある患者さん向けの本やホームページでの便秘の解説では「便秘は○○性便秘、△△性便秘、...があり...」といった便秘分類からそれぞれ××性便秘の原因を説明していますが、細に入りすぎるので触れません(つまらない話ですし)。ここではもっとアバウトに多くの人に共通すると思われる便秘の原因をお話します。原因を除去するのが治療の基本ですから・・・。原因1.朝食をとらないこと
朝起きて朝食をとることが刺激になって腸が活発に動き始め、それが便意につながります。この働きは三食の中で朝食後が最も活発なのです。朝食をとらなければ腸の動きが鈍いままで便意が出難く、トイレに行こうとも思わないでしょう。原因2.便意を我慢すること
朝便をしないで、仕事先や学校に着いてからトイレに行きたくなっても我慢しなければならない事もあります。我慢していればそのうち便意もなくなってしまいます。原因3.そして悪循環
便意を我慢し続ければ腸が鈍感になっていきます。多少便が貯まっても便意が起きない、でも便意が出たときは我慢しなければならないのではますます腸が鈍感になっていきます。そして便秘の症状が出現します。
このストーリーがすべての便秘人に該当するわけではありません。「朝食をキチンと食べているけど便秘だ。」とか「便を我慢することは無いけど便秘だ。」という人はもちろんいるでしょう。でも肝心なのは排便の習慣がついていないこと-すなわち便秘-が便秘の原因になるということです。つまり、「便秘は悪循環する」ということが重要なのです。いよいよ治療
原因がわかれば原因を除去することが治療となります。排便習慣をつけ悪循環を断ち切るということですね。朝食を食べていない人は便秘の薬だと思って朝食を食べることです。そして食べたら30分以内にとりあえずトイレに座る(あるいはしゃがむ)。でもいくらトイレで座っていても便意が出なければどうしようもありませんね。そこでいよいよ下剤の登場です。最初は薬の助けを借りてとりあえず毎日出しましょう。-望ましい下剤とは?その1-
自然な状態では腸(とくに肛門のすぐそばの直腸)に便が貯まっているという信号が排便刺激になります。便秘の悪循環ではこの信号が弱くなっているのですからこの信号を鍛えるのが理想的な治療となります。便が貯まったという刺激を与えるのに手っ取り早いのは便を増やすことですね。便を増やすにはたくさん食べればいい。でもたくさん食べたら太ってしまいます。ダイエットを心がけている人にはとんでもないことでしょう。そこで栄養とならず便だけ増やす下剤が登場します。この種の下剤は機械的下剤と正式には呼ばれていますがイメージしにくいので、ここでは便増下剤と名付けておきます(ここだけの用語です。一般には通用しません)。便増下剤は便に含まれる水分を多くします。すると便量が増えます。さらに水分を含んで便が柔らかくなることによって直腸に便を到達させやすくします。よくある下剤
ここで注意しなければならないことがあります。残念ながら薬局で勧められたり、病院で処方される下剤の多く(コー○ックなど)は刺激性下剤といって便が貯まっていなくても無理やり腸に刺激を与えて動かす薬です。便増下剤ではありません。寝る前に飲むだけで翌日には排便できる手軽な薬ですが、これでは「便が貯まったよ」という直腸からの信号は弱いままですし、連用することによって更に腸が鈍感になる-結腸無力症-になる場合があります。また、人によっては大腸への刺激が強すぎてお腹が痛くなったりします(だから下剤は飲みたくないんだという人いませんか?)。病院で処方される刺激性下剤で代表的なもの(他にもまだまだあります)
- アローゼン
- センナ
- プルゼニド
- センノサイド
- チネラック
- ラキソベロン
- テレミンソフト
- プルノサイド
-望ましい下剤とは?その2-
これに対して便増下剤は1日3回の服用が基本です。それから便の状態をみて服用量、服用回数の調節をしなければなりませんから刺激性下剤に比べれば手軽とは言えません。また当然ですが排便刺激も刺激性下剤に比べれば弱いので「効いている」という実感も少ないでしょう。でも排便刺激は自然な経路ですから必要以上に腸を刺激することはありませんのでお腹が痛くなることはありません(実際に私の診察している便増下剤服用患者さんには腹痛があるという人はいません)。便増下剤は何種類かあり病医院で処方できます。薬局で購入できるかどうかはわかりません。私も一応内科医なので薬局で薬を買うことはまずありませんから。
毎日便が出たら
便の状態をみて服用量、服用回数を減らしていきます。薬の種類を変える場合もあります。急にではなくて半年から一年かけて薬とバイバイするつもりでゆっくりとです。そうして排便習慣が回復すれば便秘も解消します(たぶん)。
最後に
ここまでのお話は便秘の治療の理想です。私は刺激性下剤はなるべく処方しないようにしているのですが便秘は個人差が大きいので刺激性下剤でなければ対処できない患者さんもいることは白状しておきます。数行前の(たぶん)も正直言えばみんながこの方法で便秘を解消できるわけではないという意味です。刺激性下剤を使わなくてもよい人まで刺激性下剤を使っている現状を多く目にしますので
「面倒ですが試しにでも便を増やす下剤を服用してみてはいかがでしょうか?そのほうが自然な排便に近づけますよ。」
との提案がこのお話の目的なのでした。
※注:この文章は「便秘と下剤」についてわかりやすく解説することを目的としています。一般的に正確性と平易性は相反しますのでこの文章にも厳密とは言えない部分があるかもしれません。
女性の便秘と薬
ここでお話するのは、「もう何年も便秘だ」とか「検査をしても異常はないのに便秘だ」というような女性に多い慢性便秘の話です。便秘の解消も生活習慣の改善が基本ですからその点にも触れたいところですが、便秘薬の誤った使用が目につきますので、ここでは便秘の薬にお話を絞ります。慢性便秘の原因は年齢によって異なるので便秘薬も当然使い分けられるのが望ましいのです。高齢者では腸の力が弱くなり排便できなくなる弛緩性便秘が多く、現在汎用される下剤が適切である場合が多いのでここで改めてお話しすることはありません。
これに対して若年から中年世代の便秘は腸の緊張が適度に強く、うまく肛門の方向へ便を送ることができないけいれん性便秘と直腸(肛門のすぐそばの大腸)に便がたまっても直腸の感覚が鈍感なために便意として感じられない直腸性便秘が大部分です。
これらの便秘に一般の下剤を用いるのは勧められません。一般市販薬の約9割、また病院で処方される下剤の多くは大腸刺激性下剤と言って化学的な刺激を大腸に与えて排便を促す薬だからです(漢方も例外ではありません)。
この下剤を内服すると けいれん便秘ではさらに大腸の緊張が強くなりますし直腸性便秘ではさらに直腸の感覚が麻痺してしまいます。
それでも腹痛を起こすので長くトイレに座ることになり、なんとか排便できるのですが、連用することによって薬の効きが悪くなり、やがて大量の下剤を使わないと排便できない状態になることがあります。
最近ではこれらの便秘を過敏性腸症候群(検査をしても原因となる異常が見つからない腹部症状を伴う便通異常)ととらえ一般の下剤ではなく過敏性腸症候群の薬で治療する方法もあります。この種の薬は飲んで翌日排便できる通常の下剤とは異なり、効果発現に時間がかかるなど根気強い治療が必要ですが、治療を望む方はお近くの消化器医に相談されてはいかがでしょうか?