皮膚腫瘍外科
皮膚腫瘍外科は皮膚や軟部組織の腫瘍(しこり)を外科的に治療します。この治療を行うのは形成外科、皮膚科、整形外科で、皮膚の広範囲または筋肉などの深部にある腫瘍以外は日帰り手術が可能です。
対象になる皮膚軟部の腫瘍は母斑、血管腫、粉瘤、脂漏性角化症、脂肪腫、眼瞼黄色腫、眼瞼汗管腫、石灰化上皮腫、血管拡張性肉芽種などがあり、手術件数の多い皮膚軟部腫瘍は母斑、脂漏性角化症、粉瘤などです。
母斑は一般的にほくろと言われ、色調は茶色から黒色、平坦なものや盛り上がっているものなど形態は多様です。脂漏性角化症は加齢とともに日光がよく当たる顔面や頚部に生じる茶色から黒色のいぼ状の盛り上がった形態です。粉瘤は皮下にしこりとして現れ、感染を起こすと赤く腫れ上がります。感染が生じる前に切除すると傷痕も小さく、再発の可能性が少なくなります。
皮膚腫瘍外科では頻度は少ないですが、皮膚がん(基底細胞がん、有棘細胞がん、悪性黒色腫など)との鑑別が重要です。
一般的に日帰り手術の流れは 初診で診察、診断、血液検査、手術の説明をして、手術日を決めますが、色素疾患である母斑や脂漏性角化症などでは、腫瘍の出現時期、自覚症状、色素の濃淡など視診し必要であればダーモスコープという拡大鏡で診断して切除方法を決めます。
このため母斑など色素性疾患の皮膚腫瘍でレーザーによる切除を希望する方がいらっしゃいますが、レーザーで母斑を蒸散させると、病理診断ができない問題があるため、母斑などの治療では皮膚がんとの鑑別を兼ねた切除することを勧めます。
皮膚や軟部組織腫瘍の手術はほとんどが良性の腫瘍ですが、腫瘍が急激に増大したり、出血やかゆみを繰り返したり、色調に濃淡があり均一でない場合は自己判断せずに受診しましょう。
『ストレスと栄養』と『腸活』の深い関係
ストレス(心や感情の乱れ)は脳がつくり出すものです。脳は数千億個の脳神経細胞の集まりで、それぞれ脳神経細胞のその働きによって情報伝達物質が違います。
感情や感覚の伝達情報を受け取る神経細胞は興奮系(ドーパミン、ノルアドレナリン)、抑制系(セロトニン、メラトニン)、調整系(γ-アミノ酪酸⦅GABA⦆)がありおよそこの3つのバランスによって心や感情が複雑にコントロールされています。
これらの伝達物質は普段の食事で摂取するタンパク質(プロテイン)やアミノ酸などからつくられ、ストレスが生じた時にこれらのアミノ酸は激しく消費されます。
そのためこれら伝達物質をつくる栄養(タンパク質や必須アミノ酸、グルタミン、ビタミンC、B群、ミネラル)をより多く摂取する必要があります。
しかし、極度の疲れやストレスの時は胃腸の状態も悪く、なかなか食事も取れない状態も多く、肉や豆腐(大豆)などのタンパク質ではなく、早急に吸収されやすい必須アミノ酸を摂取することを勧めます。
この必須アミノ酸は体の中でつくることができない9種のアミノ酸で、食事やサプリメントでしか取れません。
しかし、肉や豆腐などを食事で取っても胃腸の分解酵素で分解されない限り体には吸収されません。そのため早急に吸収される必須アミノ酸の摂取が合理的です。
必須アミノ酸は朝、夕など他の食べ物と一緒に取らない方が吸収されやすく、その時にビタミンB群を一緒に摂取することを勧めます。そしてストレスで睡眠が浅い時には分岐鎖アミノ酸(BCAA)を寝る30分前に摂取することを勧めます。
そして、同時に『腸活』が必要です。腸内環境も悪化しているので、整えることでタンパク質や必須アミノ酸、ビタミン、ミネラルなどが吸収される環境をつくりましょう。ω-3(DHA、EPA)、ビタミンDを摂取することを勧めます。
脇の悩み
脇の悩みには脇の多汗症とわきが(腋臭症)の2種類があります。脇の臭いは、わきがだと思って来院される方が多いため、脇の多汗症とわきがの違いを説明する必要があります。
脇の多汗症は汗が過剰に出てしまう状態で、特に臭いはありませんが、時間がたつことで雑菌が繁殖して臭いを放つ場合があります。わきがは遺伝的な要素が強く、汗をかかなくても脇から独特の臭いが発生します。
脇の多汗症とわきがで悩んでいる方は、臭いや黄ばみ、汗の量、人に言われたことによって気になり出すというのがほとんどです。この悩みが症状にかかわらず、日常生活に支障を生じさせます。
治療方法は異なりますので、専門医(形成外科専門医・皮膚科専門医)を受診して、脇の多汗症かわきがかの診断が必要です。自分が考えていた症状名と診断にギャップが生じることがあります。 脇の悩みの治療方法は、自費治療と保険治療があります。
自費治療には、注射、手術、超音波、レーザーなどがありますが、最近は保険で多汗症の塗布治療を行う方法もあります。この方法は、脇の汗を出す指令をブロックする薬を脇に塗り、汗を抑えます。
一方、わきがの治療は、原因となるアポクリン汗腺のある皮膚を切除縫合する方法と皮下を削り取る皮弁法がありますが、入院が必要です。
治療の効果、安全性、治療期間、有効期間、費用など自分のライフスタイルに合った治療を選びましょう。脇の悩みは他人にはあまり言えませんが、軽症でも多汗症やわきがで非常に困っている方が多いので十分専門医と相談して納得した治療を受けて下さい。
現在のリウマチ治療
関節リウマチは喫煙や歯周病などの生活環境や加齢に伴うホルモンの変化、あるいは遺伝的要因により関節内に炎症が起こることが最近の研究で明らかになっています。
具体的には体を構成しているタンパク質がいろいろな作用により異常なタンパク質に変わり、免疫は排除しようとして炎症が起こります。
関節は関節包で覆われていますが、内部には滑膜と呼ばれ関節液を作る薄い膜があり、正常では関節液を作って軟骨の滑りをよくしています。
関節リウマチでは滑膜に炎症が起こり、関節包が厚くなり関節液をたくさん作るため関節が腫れ、炎症が持続すると軟骨や関節内の骨は壊れ、変形してしまいます。
関節炎は例えると「火事」で、消火活動をしなければ建物は壊れてしまいます。
つまり関節炎を「消火」する治療、すなわち薬を使わなければなりません。
薬には痛みを抑える鎮痛剤、少量のステロイドなどありますが、関節炎を「消火」するわけではありません。
疾患修飾抗リウマチ剤と呼ばれ、関節炎を起こしている異常な免疫に作用して関節炎を抑える薬の使用が必要となります。
従来から免疫調整剤、抑制剤があり、代表的なのがメトトレキサートという薬です。
リウマチ治療のガイドラインでは関節リウマチの診断がつけば、メトトレキサートの使用が推奨されています。
さらに近年、分子標的薬と呼ばれ、免疫細胞間の刺激を伝達するサイトカインの働きを抑える、あるいは細胞内に入った刺激が遺伝子に働くのを抑える抗リウマチ剤が相次いで登場しました。
現時点で7種類の抗体製剤と2種の化合物質があり、治療により関節炎が消失し「寛解」と言われる、いわゆる治ったに近い状態を達成することが可能となりました。
ガイドラインではメトトレキサートが十分な効果が得られない場合に使用が薦められていますが、治療費用が高額で希望すれば誰でも受けられる治療とは言えません。
しかし、高額な治療費を支払わなくても済む国や地方の支援制度がありますので、治療を希望される方は医師に相談されると良いでしょう。
痛風と高尿酸血症について
「通風」はかつては「美食病」ともいわれごく一部の人の病気と思われてきました。
しかし1970年代以降、食事の欧米化に伴い、日本でも急速に痛風の患者さんが増えてきています。
「痛風」の原因は血中の尿酸という成分が増加し、それが関節に尿酸結晶として出現する事が主因です。
この結果、「痛風発作」といわれる急性関節炎が発症します。
「痛風発作」は足の母趾に起きることが非常に多く、かなりの激痛のため、歩行困難になることもあります。
「高尿酸血症」は尿酸値7.0mg/dl以上のものをいい、「痛風発作」がなければほとんど自覚症状がありません。
しかし尿酸値8.0mg/dlを超えると急に「痛風発作」を発症する割合が増加します。
まだ症状が出ていなくても、尿酸値のコントロールを開始したほうがいいでしょう。
「高尿酸血症」は痛風の原因となるだけではなく、腎機能障害、尿路結石症の原因にもなります。
さらに高血圧症、高脂血症、肥満のいわゆる「メタボリック症候群」とも密接に関係していると言われています。
加えて「高尿酸血症」そのものが、狭心症などの心血管系の疾患のリスク要因となるという報告もあります。
結論として現在、尿酸値は6.0mg/dl以下を目標にして治療しています。治療は生活指導と薬物療法を並行して行います。
生活指導の基本はアルコール摂取の制限と肥満の予防です。
特に内臓脂肪型肥満と尿酸値上昇との間には密接な関係があると言われています。
薬には尿酸生成抑制剤と尿酸排泄促進剤とがあり、症状でとくに腎機能を評価した上で使い分ける必要があります。
「痛風発作」がなくても「高尿酸血症」は放置せず、合併症を予防するためにも適切に治療しましょう。
ロコモティブシンドロームを知っていますか?
内科での「メタボリックシンドローム」は誰でも一度は聞いたことがあると思います。
その意味は内蔵脂肪型肥満を主因とする様々な成人病の危険性を高める状態といわれています。
それと同様の考え方で、運動器(骨、関節、筋肉)の障害により、自立した生活ができなくなったり、介護が必要となる危険性を高める状態を「ロコモティブシンドローム」といいます。
これは2007年に日本整形外科学会が提唱した新しい概念です。
実際、75歳以上の高齢で介護が必要となる原因の中で、運動器疾患は24%で脳血管障害とほぼ同率となっています。
「ロコモ」(略して)では先ず「起立」や「歩行」の障害として症状が始まります。
歩く為には、先ずバランスよく「起立」しなければなりません。
更に「歩行」という運動は単純な動作に見えますが、実はかなり複雑に、神経系、骨格、筋肉の総合的な機能が関与しています。
特に歩行時には、短時間ですが片脚で立たなければならない動きがあります。
これが不可能になると高齢者によく見られる「ひきづり歩行」となります。
そこで「ロコモ」の予防のために最も有効な運動の一つとして「片脚起立運動」が勧められます。
ふらつきがある場合には何かにつかまっていてもいいのですが、片脚で1分間立ち左右3回繰り返すだけです。
室内で簡単にできますが、転倒には十分注意して下さい。
筋力に自信のある方、40〜50代の方は更に「片脚スクワット」や「片脚つま先立ち」を加えてもいいと思います。
高齢化は、これからもどんどん進み、医療、介護の将来も厳しいものがあります。
40〜50代から「ロコモ」の予防をして、更に親の世代にもアドバイスなどができれば介護の負担が減る可能性もあります。
整形外科
整形外科は、姿勢を保持する首から腰にいたる背骨と、手足の運動器官を主な対象とし、それらを構成する脊椎・骨・関節・筋肉・腱・神経などが治療の対象になります。
その内容も肩こり、腰痛や脊椎・末梢神経を原因とする手足のしびれ、スポーツ、交通事故などによる四肢、背骨のけが、五十肩などの関節痛、股・膝関節などの変形性疾患、リウマチ、炎症性疾患、代謝、奇形、腫瘍、特発性疾患など、実に多岐にわたります。
高齢化社会を迎えて痛みを伴わず歩いたり、身の回りのことが自分でできるように身体的機能を保って老後の快適な生活が送れる生活の質(Quality of life)の維持・改善という点で、腰痛や変形性膝関節症などの関節痛、骨粗鬆症やそれに伴う骨折の予防治療など、我々整形外科医がお手伝いさせていただくことはますます増えています。
また、スポーツの普及とともに大勢の各年齢層の方が、それぞれのレベルでスポーツを楽しむようになって、スポーツによるけがや使い過ぎなどの障害も増加しています。
特に成長期におけるスポーツ障害は、そのためにスポーツを続けることが難しくなったり、後遺症を残すことがあり我々専門医のもとで早期に診断、適切な治療を受けられることが大切だと思います。
御父兄、指導者の方々と協力をして、楽しくより高いレベルでスポーツが続けられるよう貢献できればと思います。こうした時代・社会の変化とともに、今後ますます専門医として我々整形外科医の役割・責任が大きくなっていくのではないかと考えています。
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の新しい治療薬(テリパラチド)について
人の骨の中では、常に古い骨が破壊、吸収され、新しい骨が造られています。
これを「骨のリモデリング」といいます。このバランスがくずれ「破壊と吸収」の方が「形成」より亢進(こうしん)すると骨粗鬆症になってしまいます。
今までの骨粗鬆症治療薬は骨吸収を抑制するものがほとんどでしたが、最近、副甲状腺ホルモン誘導体のテリパラチドが使用可能となり、骨形成促進剤として注目されています。
研究によると、テリパラチドの24カ月投与で腰椎骨密度は13%上昇し、椎体骨折の発生率を65~80%減少させたとのことです。
実際に私が使用した経験では、かなり早期から腰背部痛の軽減がみられ、日常生活動作が改善しています。
テリパラチドの使用法は毎日自己注射するタイプと1週間に1回、病院で注射するタイプがあり、患者さんの条件により選択することができます。
地域に根差した整形外科を目指して
整形外科は、上肢・下肢・脊椎の3つの分野に分かれています。
治療技術は日進月歩で、それぞれの分野で治療方針は多岐にわたるため整形外科医の中でも上肢・下肢・脊椎に専門が分かれています。
上肢は肩から手まで、下肢は股関節から足まで、脊椎は頸から腰までといったように分かれていますが、症状は様々な部位に出るため、一概に一つの分野だけで治療を行うことは難しいです。
代表的な疾患を挙げると、上肢では肩周囲炎(いわゆる四十肩、五十肩)、肘部管症候群・手根管症候群(手のしびれ)、ばね指等。下肢では、変形性関節症(動き始めの膝、股関節の痛み)、捻挫やスポーツによる膝、足首の靱帯損傷。
脊椎では頸椎症(くびの痛み)、腰部脊柱管狭窄症(何分か歩くと足がしびれる)、急性腰椎症(ぎっくり腰)、首や腰のヘルニア等が挙げられます。
保存的治療(内服薬、外用薬、リハビリ等)で改善が認められない場合は、かかりつけ医の先生と相談していただき、一度、専門としている整形外科の先生を受診してみてはいかがでしょうか?
成長期のスポーツ障害について
成長期、特に10〜15歳位までの数年間は骨格や筋肉の発達の目覚ましい時期です。
この時期の子供の骨には「骨端線」という部分があり、主として軟骨細胞で構成されています。
「骨端線」は関節の近くにあり骨の成長を担っています。
構造的に弱い為に、スポーツによる障害を受けやすく、その結果、機能障害を残してしまうこともあります。
それではスポーツ障害の中で頻度の高いものを分かり易く説明していきます。
少年野球における「野球肘」はスポーツ障害の代表的なものと言えます。
「野球肘」には上腕骨小頭の壊死を生じる「外側型」と、上腕骨内上顆の骨端線離開を生じる「内側型」があります。
両型とも投球時の肘関節痛が初期の症状です。
進行すると肘関節の屈曲、伸展が制限され後遺症として関節の変形を残すこともあります。
最悪の場合、手術が必要となる場合もあります。
障害を残さない為には早期診断が大切で、治療の遅れは選手生命を損なう可能性もあります。
ランニングやジャンプを伴うスポーツでは「オスグット病」という膝関節の下部にある頸骨粗面の骨端線が腫れて痛みを生じます。
特にサッカー選手に多いようです。
急性期には安静が必要ですが、軽傷例では専用サポーターを使用し、経過をみていきます。
成長期の腰痛の原因の一つに、「腰椎分離症」があります。
腰椎後方の椎間関節の一部に疲労骨折が起こり、分離症に進行すると言われています。
特にバレーボール、バスケットボール、柔道の選手に多く見られます。
分離症の腰痛は後屈時に強くなることが大きな特徴です。
放置されると分離部の骨癒合は困難になるので、早期の診断、特にCT検査が必要です。
以上、「成長期のスポーツ障害」の早期診断の為には、まず周囲の大人が症状に気付いてあげる事が大切で、そこから治療の第一歩が始まると言っても過言ではありません。