レビー小体型認知症
認知症には様々な種類のものがありますが、その一つが「レビー小体型認知症」です。
脳に「レビー小体」というものが見られることからこのように呼ばれています。
レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症、血管性認知症と並んで、比較的多く見られる認知症です。
認知症と言うとまず物忘れが思い浮かびますが、レビー小体型認知症では物忘れを始めとする認知機能の低下があまり目立たない場合があり、次のような様々な症状が出現する傾向があります。
まず、睡眠時に大声で叫ぶ、壁をたたいたり、暴れたりすることがありますが、これは夢に関係する症状です。
夢を見ている時には筋肉は弛緩しており、実際の行動は起きないものですが、そのバランスが崩れると様々な行動となって現れるのです。
また、良く見られる症状には幻覚、特に幻視があります。
「子供がたくさん来ている」、「孫が居る」などと言ったりします。
同じ内容の幻視がありありと、繰り返し体験されるのが特徴です。
また、抑うつ症状が目立つこともあり、特に高齢の方の治りにくいうつ病の場合には注意が必要です。
動作が遅くなったり、つまづきやすくなったり、パーキンソン病の症状が見られることがあります。
また、自律神経の症状として、起立性低血圧、必ずしも原因ははっきりしないのですが、失神も起きることがあります。
検査に関しては、脳シンチという検査が有用です。
頭部MRIでは萎縮が明らかではなく、はっきりした所見が得られない場合でも、脳シンチでは後頭葉の血流が低下していたり、基底核という部分への薬剤集積が低下しているのが分かります。
治療についてですが、薬剤の副作用が出やすいことが特徴であり、量的に少な目に処方することになります。
認知症に対する薬、漢方薬、パーキンソン病に対する薬、場合によっては少量の精神安定剤が用いられます。
軽度認知障害
何らかの認知機能の低下はあっても、日常生活には特に支障がない、あるいは自立ができているという状態を「軽度認知障害」と言います。認知機能には、注意力、物事をうまく進める能力、学習と記憶、言葉の能力、目で見て認識したり、それと作業を組み合わせたりする能力、他の人の感情の変化に気付く能力があります。認知機能が軽度に低下すると、次のような事が起こる可能性があります。
今まで簡単にできていたことをするのに時間がかかるようになったり、間違いが多くなったりします。異なる作業を並行してすることが難しくなったり、会話の変化について行くためにより多くの努力が必要なって、疲れ易くなることもあります。最近の出来事を思い出すのに苦労し、メモやカレンダーに頼ることが多くなるかも知れません。映画や小説の登場人物を覚えておくためにそのつど手がかりが必要になったりします。言葉が出にくくなったり、微妙な文法の誤りが生じたりすることもあります。
新しい場所にたどり着くために以前よりも多く他人に尋ねたり、集中していないと道に迷ったりすることもあるでしょう。大工仕事、縫い物、編み物などの空間作業に大きな努力を必要とするようになります。顔の表情を読んだりする能力の減少、外向性または内向性の増加、節度の低下、微妙なあるいは一時的な無感情、または落ち着きのなさなどのために、性格が変わったように見えることもあります。
軽度認知障害は認知症に進む場合と、あまり進行しない場合があります。MRIなどの頭部画像や心理検査であまりはっきりとした所見が得られませんが、脳シンチという検査で脳の特定の部位における血流の低下が見られることがあり、このような場合には認知症へ進行する可能性が高いと考えられます。
対応としては、認知症の薬を服用する、半年~1年くらい経過を観る、などの場合があります。
高齢で発症するてんかん
脳内の神経細胞の集まりが過剰な興奮を起こすことによって発作が起きる病気のことを「てんかん」と言います。
症状としては、ボーっとしたり、意識が無くなったり、筋肉が瞬間的にビクンビクンとなったり、けいれん(体が急に硬くなったり、ガクンガクンと震えたりします)が起きたりするのが主なものです。
ところで、「てんかん」というと以前は子供の病気と考えられてきました。
発症する年齢は若い方が多く、おおむね年齢を重ねるにつれて発症率は低下するものだと考えられていたわけです。
しかし、最近ではてんかんの発症率は高齢者の方が高いということが分かっています。
そして、症状の特徴の一つとして、あまり典型的でない場合が多く見られるということがあります。
つまり、比較的けいれんが少なく、意識のくもりや物忘れ、不注意が目立ったりするということです。
また、幻覚、妄想や抑うつなどの精神的な変調のために受診したりして、他の病気との見分けが難しいことがあります。
原因としては、例えば脳血管障害が30~50%で一番多く、その次に多いのがアルツハイマー型認知症などの変性認知症、頭部外傷などであり、30%程度は原因不明といわれています。
ただし、身体的な問題によってけいれん発作が生じることがありますが、そのような場合には状態が良くなればその後は発作の治療は必要がなくなります。
身体的な問題とは、発熱や感染症、高血圧、低血糖や高血糖、血中ナトリウム、低カルシウムなどの電解質の異常などです。
また、さまざまな薬の影響で発作が起こることもあり得ます。
治療薬については、抗てんかん剤が使われますが、他の薬との併用になるべく影響のない薬を選ぶことになります。
今後高齢者はますます増加しますので、てんかんの発症もそれにつれてさらに多くなることが予想されます。
せん妄①
見えるものを正しく見たり、聞こえてくるものを正しく聞いたり、さらに状況を良く判断して正しく対応する能力のことを「意識」と呼んでいます。
この能力が損なわれた状態を「意識障害」と言います。
意識が損なわれると、ぼんやりした感じになりますが、これは意識の混濁(こんだく)「くもり」と言われます。
意識の障害が「くもり」だけの場合は分かりやすいのですが、その他にも症状が加わって、複雑な様相になることがあります。
それが「せん妄」と呼ばれる状態です。
つまり、せん妄というのは意識のくもりがあり、さらに幻覚や錯覚が起きたり(「誰か人が居る」と言ったりします)、感情的に不安定になって、怒りっぽくなったり、しゃべり続けたりする状態のことです。
一方、あまり動かなくなってしまう「低活動型せん妄」というものもあります。
せん妄では認知機能が全体的に低下するのですが、特に注意力が低下するということが特徴です。
また、せん妄は急激に起こり、その症状の程度が変化しやすいことも特徴の一つです。
一般に、いくつかの因子が重なってせん妄が出現しますが、その直接的な原因をほとんどの場合に特定することができます。
その直接的な原因を大まかに挙げると、身体の病気、脳および神経の病気、薬物などです。
身体的な病気は、心臓、腎臓、肝臓などの内蔵の働きが極端に低下した状態、感染症、ホルモンの異常などで、脳、神経の病気は、脳卒中、認知症、パーキンソン病などです。
薬物はアルコール、麻薬、睡眠薬、精神安定剤、坑うつ剤などの他、痛み止め、胃薬、高血圧の薬、心臓の薬など、実に多くのものが原因となり得ます。
飲み過ぎたりせず、服薬の仕方に注意を払うことが必要です。
治療は、できる場合には原因を取り除くことと、薬物療法です。
せん妄は、軽度の場合には見逃されやすいので、特に高齢の方の場合には注意が必要です。
実はありふれた病気、統合失調症
統合失調症は、大体100人に1人がかかる、ありふれた病気です。
原因は不明で、元々の体質と環境が関連して発症すると考えられています。
症状は個人差が大きく、代表的なものは幻聴や妄想です。
幻聴は誰もいないのに話し声が聞こえ、不快な内容が多いようです。
妄想とは、どんなに説得しても訂正されない誤った考えのことで、被害妄想などがあります。
治療は薬物療法が主体で、より副作用が少なく効果の高い薬が開発されてきています。
症状がよくなっても服薬をやめると再発することが多く、再発を繰り返すと元の生活に戻りづらくなるので、よくなったからといって自分で薬を減らしたりやめたりせず、副作用などについて主治医とよく相談しながら治療を続けることが大切です。
妊娠と不安管理
パニック障害などで不安を感じている方が妊娠中の場合、あるいは妊娠を望む場合に問題となるのは服薬です。
不安に対する薬剤で子供に全く影響がないものはほとんどないので、ある程度のリスクがあることを承知の上で服薬するか、あるいは服薬しないかを選ぶということになります。
服薬を望まない場合、別の方法で対処することが必要となります。
その一つが不安を自分で管理するという方法です。
具体的には、リラクセーションを利用して不安をコントロールします。
リラックスしながら不安を感じることは一般に難しいことなのです。
リラクセーションには幾つかの方法があります。
例えば、筋肉を緩めて、筋肉が緩む感じに集中する方法があります。
筋肉が緩む感じを体験するには、まず筋肉を緊張させてから緩めると良く感じることができます。
たとえば右手を握ってゆっくり開くことで、右手、右腕の筋肉が緩むのを感じることができます。
これを全身の筋肉で体験できるように練習します。
また、イメージを用いる方法もあります。
これは、非現実的な場面を空想するのではなく、日常で実際にリラックスできる場面、以前に実際にリラックスできた場面を思い浮かべることで実現できます。
うまくリラックスできるようになったら、次に進みます。
不安を感じる場面をイメージして、それをリラックスしている場面のイメージに変える練習をします。
それができるだけ早く、自由にできるようになるにつれて、効果が高くなります。
しかし、病状によってはどうしても服薬が必要とされる場合もありますし、服薬しても無事に出産される方は多いので、一概に服薬を避けるべきだというわけではありません。
症状の強さ、性質や、不安以外の症状の有無なども考え合わせて、慎重に選択することをお勧めします。
不眠症
成人の20%が不眠に苦しんでいるともいわれており、不眠症が最も多い健康問題の一つであることは間違いありません。
就寝後眠るまでに30分以上かかる、夜中に何回も目が覚める、期待した時間よりも2時間以上早く目が覚めてしまう、朝起きた時に熟睡感がない、というのが不眠症の症状です。
しかし、このような症状があっても、日中に影響のない場合には「不眠症」ではなく、疲労、倦怠感、集中困難、意欲低下、不安、その他の問題が生じている時に、はじめて「不眠症」という診断がなされます。
このような症状が、心配事や痛みがある時に数日出現したり、仕事や家庭のストレス状況において数週間出現することがあるのは当然です。
しかし、長期的、慢性的に持続する場合には、心臓の病気、高血圧、肥満、高血糖やうつ病など、様々な問題が起こりやすくなり、不眠症は一つの病気として対処することが必要となります。
不眠を続けさせるような仕組みができあがっているため症状に対処するだけでなく、慢性的に不眠を続けさせる要因にも働きかける必要があるということです。
脳は過度に目覚めた状態になり、不眠を維持させるような行動パターン、考え方が続くようになるわけです。
治療としては薬物療法の他、行動パターン、考え方に対する働きかけが必要となります。薬物療法では最近副作用が少なく、依存になりにくい薬(非ベンゾジアゼピン系といわれる薬などです)が多く処方されるようになってきています。
薬以外の対処方法には指針があって、次のようなことがすすめられています。たとえば、
①寝る時間と睡眠時間にこだわりすぎない、
②起床時間を一定にして、起床後に日光に当たる、
③午後から夕方の規則的な運動、
④カフェインなどの刺激物質を避ける、
⑤リラックスする、などです。
要するに、複数の方法で対処することが望ましいと考えられています。
うつ病③(経過と再発予防)
うつ病がどういう経過をたどるか、どのように再発を予防するか、というお話です。
3カ月から4カ月で症状が消失し、1年ほどで薬も中止することができる、というのが普通の経過かもしれません。
しかし、いろいろな要素が影響して必ずしもこのようにはいかない場合も多く見られます。
なかなか改善しない場合、薬を減らしたり中止したりするとすぐに悪化する場合、一時軽快してもある期間でくり返される場合など、様々な経過があります。
その要素とは、ごく簡単に言えば、体質といわれるもの、性格、ストレス、嫌な記憶(「トラウマ」と呼ばれることがあります)などですが、これらが微妙に影響しあって先行きの違いが生じてきます。
また、一度うつ病が起こると、回数を重ねるごとにうつ病が起きやすくなる、ということもいわれています。
さて、このようにさまざまな経過がある中で、どのように再発を防いだら良いのでしょうか。
服薬を続けることが一つの方法ですし、もちろんストレスは小さいのに越したことはありません。
また、物事の考え方、感じ方にあまり大きな偏りはない方が好ましいことも分かります。
状況の変化に柔軟に対処できる方がより良いでしょう。
しかし、うつ病の場合、一つ大切なことがあります。状況に応じて、あるいは状況に関係なく、以前の「抑うつ」が浮かんできて、それに引きずられる場合があるのです。
それは気分であったり、考えであったり、不快な身体の感覚であったりするわけですが、このような再体験に引きずられないようにすることが必要です。
それには不快な体験をただ避けるのではなく、例えば良く観察し、それを言葉で表す、その上で今していることに集中する、という仕方が最近勧められています。
このような方法は、実は大昔から東洋で行われていたものなのですが、様々な状況に応用されるようになってきています。
成人の注意欠陥・多動性障害
そわそわ、もじもじしてじっとしていられない、手足をいつも動かしている、ぼんやりして忘れっぽい、かんしゃくを起こしやすい、というような症状があり、それが生活に差し支えるほどであれば、注意欠陥・多動性障害と診断される場合があります。
注意欠陥・多動性障害というのはもともと子供の障害ですが、成人にもあります。症状は大まかに不注意、多動性、衝動性、に分けられます。
不注意の面では、仕事でのミス、忘れ物、約束や期日を守れない、片付けるのが苦手、仕事や作業を順序立ててすることが苦手、などの特徴があります。
実例をあげますと、ある人はこのように言っています。
「会議の時に困ることがあります。時々、会議中に別のことを考えてしまい、気が付くと何が話題になっているのか分からなくなっているのです」と。
そういうわけで、突然まとはずれな発言をしてしまうことがあります。
また、ある子供は「終業式の日、帰りにブランコがあるのが見えた。
ブランコに乗っていると、もう、そばに置いてある通信簿の入ったもののことはまったく頭になくなっていた」と言っています。
大変大事なものだとは分かっていても、家に帰ってから持っていないことに気が付いたのです。
多動性について大まかには、落ち着きがないタイプとぼんやりしやすいタイプがある、といえますが、多動が目立たないといっても、よく観察するとしばしば手足を動かしていたり、あまり長い時間はじっとしていられなかったりすることがあります。
衝動性というのは、思ったことをすぐ口に出して相手を傷つけてしまう、衝動買い、かんしゃく、というようなことです。
原因について確かなことは分かっていませんが、脳内の神経伝達物質であるドパミンとノルアドレナリンの問題が推定されています。
現在使用されているのは、ノルアドレナリンの問題を改善する薬で、最近処方できるようになっています。
うつ病②(精神症状)
うつ病で多くの身体的な症状が現れることは良く知られていますが、精神的な面にも様々な影響が現れます。
うつ病というのは感情の病気ですから、まずは感情の問題が生じます。「感情が無くなってしまった」、「悲しいと感じることもできない」というような症状が実は最も典型的なものなのですが、憂うつ、気持ちが落ち込むなどが一般的に見られます。この他、悲しい、絶望感、などの症状もよく見られます。また、かなりの方が不安(不安は感情の障害の症状の一つとも考えられています)を感じます。
次に意欲の低下があります。意欲は行動に影響を与えますので、最も重症な場合には、まったく動かず、反応が無くなってしまうことがあります。もちろん、これほどの重症な例は多くはありませんが、多かれ少なかれ意欲低下が見られ、何もする気がしない、物事が大儀と感じられるものです。また、人に会いたくない、人と話をしたくないと感じられたりします。
思考に関しては、「頭が回らない」、「考えが進まない」という症状が典型的で、ひどい時には話もまともにできなくなります。考えようにも、思考が進まないということです。
一方、くよくよと同じ悲観的な内容のことをくり返し考え続けていることがあります。「抑うつ的なめいそう」などと言われるもので、見た目はぼんやりしている感じで、動きも少なく、先に述べた「頭が働かない」という状態と同じようには見えるのですが、若干事情が異なっています。
悲観的な考え、マイナス思考を反復することによって憂うつな感情が悪化し、それがまた悲観的な考えを強くし、絶望感を増す、という悪循環ができていることがあります。このような場合、バランスのとれた思考に目を向ける、マイナス思考があってもある程度の行動を試みるなどの自己コントロールが必要とされ、それが有効なことがあります。