子どものワクチンは不要不急ではありません
新型コロナウイルスの流行もようやくひと段落したようですが、病院に行くと感染が心配でとワクチンまで遅れ気味になってしまっている子どもたちが増えてきています。
ワクチンは公費で賄われるものですが、接種時期を外れてしまうと、公費にはならなかったり、回数がしっかり打てなかったりなどの弊害が出ますので、注意が必要です。四種混合ワクチンで問題になるのは百日咳です。昭和40年代後半から副反応が問題となり、昭和50年にいったん中止となりました。接種年齢を変更して、ワクチンを再開しましたが、接種率の低下が止まらず、百日咳での死亡が増加したことがあります。現状のワクチンでも、ワクチン効果を上げるために接種回数を増やす議論がされているくらいなので、接種の遅れで百日咳の流行が懸念されます。2020年1月から北海道全体で131件、市立函館保健所管内で4件、渡島保健所管内で2件の百日咳の報告があります。
ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンで予防できる細菌性髄膜炎は5カ月以降にその頻度が増えるといわれていますので、2カ月、3カ月、4カ月で3回の接種を終了することが肝要です。この2つのワクチンによって、ワクチンで予防できるタイプの細菌性髄膜炎はほぼゼロとなりました。
MRワクチン(麻しん風疹混合ワクチン)の1期は1歳から2歳未満。2期は小学校入学前の1年間とされていて、接種遅れに対する救済措置はありません。麻しんの流行があると一定の割合で死亡例が出ますし、風疹の流行があると先天性風疹症候群の発生が懸念されます。
多くの子どもたちがしっかりとワクチンを打つことで、流行がなくなり、安心して生活できます。コロナの影におびえて、予防できる感染症で子どもが不利益にならないようにお願いいたします。
インフルエンザが流行中です
秋口からの例年にない手足口病や伝染性紅斑の流行の後、インフルエンザの流行が早々とやってきました。12月にこれだけの規模で流行がみられるのは、2009年の新型インフルエンザが流行して以来のことです。
感染症情報センターや札幌市衛生研究所などの情報を見ると、現在、北海道の多くのところで流行しているのはA型H1pdmといういわゆる新型インフルエンザと同じタイプのウイルスです。簡易的に調べるものを使っても、函館近郊では流行の始まりから一貫して同じタイプのものがはやっているようです。
今年のインフルエンザの症状の特徴は? とよく言われますが、実際にはあまり違いを見ることは少ないものです。急な発熱とぐったりした様子、発熱のあとに咳や鼻水が出てくるのが一般的なインフルエンザの経過です。今年は、12月になってから胃腸炎の症状を伴う方がちらほら見えていますが、型が違ってそのような症状が出ているというわけでもないようです。
ワクチンに勝る予防法はありません。今年はワクチンを1回接種したり、ワクチン接種ができないでいたりする間にインフルエンザに罹(かか)ったお子さんが多くいます。インフルエンザワクチンには4つのタイプのインフルエンザに効く成分が入っていますので、たとえ1回罹ったとしても、予定しているワクチンはそのまま受けるようにお願いします。インフルエンザに罹った後、すぐにはワクチン接種ができないことが多いので、予定している病院とよく相談の上、ワクチンを続けるようにしてください。
流行を止めるためには熱が出た日から5日間(熱が出た日に5を足した日まで)は仮に熱が下がったとしても家にとどまっていることです。保育園・幼稚園の登園は熱がない日を3日間、小学生以上の登校は熱がない日が2日間ないとできません。この期間は必ず守ってください。
百日咳にご注意を
今年に入って関東地域を中心に百日咳(ぜき)の報告が相次いでいます。
全国ではこれまでに9500件以上の報告があり、道南地域でみると市立函館保健所管内で14件、渡島保健所管内で3件、江差保健所管内で4件の報告があります。
百日咳とはどんな病気なのでしょうか?
皆さん過去の病気と思っていませんか?
百日咳は10日ほどの潜伏期の後、普通の風邪のような症状から始まり、次第に激しい短い咳を立て続けにするようになります。
咳の後は大きく息を吸いその時に笛のような音を出すという咳発作が起こります。
咳をするときに息を詰めるようにするため顔が赤くなる、出血斑が出る、目の結膜にも出血するなどの症状を伴うことが多いといわれています。
激しい咳は2ないし3週間続きます。
その後は次第に少なくなりますが、時折発作性の咳が出るなどの症状が続き、最終的に3カ月ほどでようやく咳が収まります。
このため百日咳と言われるようになりました。
1歳未満で発症すると特徴的な咳はなく呼吸を止める無呼吸発作やチアノーゼで気付かれることが多いようです。
まれに低酸素性の脳症を起こすことがあり、注意が必要です。
成人の場合は特徴的な咳があまり明らかではなく、採血や病原体の検査を行い診断されることが多いようです。
子どもの場合、乳児期から4種混合ワクチンをしているために、5歳未満の流行はあまり多くはありません。
年齢的に多いのは20代から50代の成人で、ワクチンをしていても抗体の低下に伴い発症している例が多いといわれています。
11月の報告例では市立函館保健所管内で10代の男女各1人、30代の男性となっています。
治療は適切な時期に抗生剤を飲むことです。
抗生剤を飲むことで、菌の排出が止まります。
予防はワクチンをしっかりすることです。
特に4回目の4種混合を忘れていることが多いので、今一度母子手帳をお確かめください。
7歳半までであれば無料で接種可能です。
おたふくワクチンを受けましょう
今年4月から始まったNHKの「連続テレビ小説 半分、青い。」の主人公 楡野鈴愛(にれのすずめ)は、おたふくかぜにかかったかはっきりしないまま、片方の耳が聞こえなくなり、病院でおたふくかぜによる難聴と診断されます。
その後の主人公は、難聴であることをむしろ楽しんでいるような印象ですが、皆さんのお子さんがおたふくかぜで難聴になったらどうでしょう。予防できる手段があったのにと言われるかもしれません。
おたふくかぜに伴う合併症をお母さま方に聞くと多くの方は男性の不妊と言われます。確かに、成人近くなっておたふくかぜにかかればそういう合併症もあるでしょう。しかし、本当に恐ろしいのは難聴になることです。鈴愛のように、おたふく風邪の症状がないままおたふくにかかっていたというのはおたふくかぜ全体の20%程度あると言われています。
難聴になる頻度はおたふくかぜにかかった人の約1000人に1人と教科書的には書かれています。しかし、この十数年の間に出た論文を見てみますと、200ないし300人に1人という極めて高い頻度で合併するとの報告が多くみられます。この難聴は治ることはなく、ごくまれには両方が難聴になる場合があります。言葉を覚える前に両方の難聴になれば、子どもにとって大きな痛手になることは明らかです。
難聴を発症するのはほとんどがおたふくかぜワクチンを打っていないお子さんです。残念ながら、現在でもおたふく難聴の治療法はありません。唯一防ぐのは、おたふくかぜワクチンを打つことしかありません。おたふくかぜワクチンの主な有害事象は無菌性髄膜炎です。ワクチンを打った後に熱が上がり、頭痛やおう吐がおこるというものです。一般的には後遺症はありません。
おたふくかぜによっても同じような無菌性髄膜炎が起きますが、頻度は高く、ワクチンによるものよりは重症です。
ワクチン接種は1歳の時と年長児、2回の接種が推奨されています。接種料金は各医療機関にお問い合わせください。
インフルエンザの流行が始まりました
いつもより早い雪の訪れはインフルエンザの流行も舞い込んでいるようです。
私のところには過去20年分の函館やその周辺のインフルエンザの流行状況の記録が残っております。それによりますと、インフルエンザが流行期に入ったと判断されるのが11月中であったのは、今年も含めて過去10年で5回です。そのうち新型インフルエンザの流行で秋口からの流行が多かった2009年と10年を除けば3回となります。1993年から2007年までは全くありませんでしたので、だんだんと早くなっているのは統計上にも表れています。
流行の規模から見ると15~16年シーズンは大規模な流行でしたが、それ以外の年は同程度の流行となっています。例年、11月に流行が始まった年は大きな流行にならないというのがここ最近の傾向ですが、今年はワクチン接種が少ないので、その傾向が続くかどうかはまだ分かりません。
今年の流行ですが、札幌市の衛生研究所の報告ではN1H1pdmが優勢、東京都の衛生研究所の報告
ではA香港型が優勢となっております。
今シーズンのワクチンは、当初品不足が心配されましたが、多くの医療機関でワクチンを早めに終了したことも影響しているのか、ここにきてある程度の量を確保できるようになりました。特に、65歳以上の定期接種対象者は接種期間が1月末までに延びたこともあり、接種が済んでいない対象者の方はかかりつけの先生とご相談の上接種されるようお願いいたします。
子どもの接種に関しては、札幌の流行状況から判断すると、ワクチンの効果は十分あるものと考えられます。保育園や幼稚園、学校などに通っているお子さんを中心にできるだけ早く、希望される方は打つようにお願いいたします。接種間隔は3週間が理想ですが、本格流行が迫っていますので、かかりつけの先生とご相談ください。
MR(麻しん風疹混合)ワクチン2期は早めに打ちましょう
2015年に日本はWHOから麻しん排除宣言を受けました。
これは、MRワクチンが2回、接種率95%以上がお父さんお母さんの努力の結果でなされたためです。
しかし、国内からの麻しんの発生はほとんどなくなりましたが、海外から持ち込まれる麻しんの流行が相次いでおります。
昨年8月に関西空港から広がった麻しんの流行は関西空港関係者で33名の感染者を出しました。
平成28年では最終的に161名の麻しんの報告がありました。
持ち込まれた麻しん発端者の渡航先は東南アジアがほとんどで、2回の麻しんワクチン(MRワクチンを含む)を接種して発症した人は15%程度だということが分かっております。
今年になっても5月28日までの段階で165名の麻しんが報告されております。
現在は流行が続いている所はありませんが、これまでに10以上の報告がみられる都府県は、山形、東京、三重、広島となっております。
昨年の流行時にはMRワクチンの入荷が一時的に制限され、1歳台でのワクチンを優先させざるを得ませんでした。
MRワクチン2期は、来年小学校に入学するお子さん、つまり年長さんに行うとされており、6歳になってから行うというものではありません。
まだ、接種を行っていない年長さんは、出来るだけ早期にワクチンを受けるようにしてください。
日本脳炎のワクチンの連絡がきているお子さんはMRワクチンとの同時接種も可能ですので、併せて行ってください。
今年の夏休みに東南アジア方面に旅行を計画されている大人の方も、麻しんに罹ったことが明らかか、麻しんワクチンを2回接種している人以外は、渡航前に麻しんワクチン単独か、MRワクチンを打つことをお勧めしております。
ひとりひとりの方が、麻しんに対して強い警戒感を持っていないと、1000人に一人といわれる麻しんでの死亡を防ぐことができません。
小さな命を守るためにも、格段の注意が必要です。
おたふくかぜ難聴って知っていますか?
おたふくかぜウイルスで発症するおたふくかぜはワクチンで防ぐことのできる病気です。
函館市内近郊では今年5月末から流行が始まりました。
過去には、平成8年と9年、15年、22年から23年にかけて流行がみられました。
今回は5年ぶりの流行となります。
おたふくかぜは2~3週間の潜伏期ののちに耳の下にある耳下腺や顎下腺などが腫れてくる病気です。
感染しても症状が現れない不顕性感染者が30%程度いることが知られており、症状が出なくてもおたふくかぜに対する抗体ができたり、合併症が知らない間に出ていたりということがあり得る病気です。
耳下腺や顎下腺が腫れてから5日間経つと人に感染する力がなくなるとされており、全身状態がよければ仮に腫れが残ったとしても登園や登校が可能です。
よく知られている合併症は髄膜炎や睾丸炎、卵巣炎などですが、子どもたちにとって一番心配なのは難聴がみられることがあるということです。
難聴の合併症は病気の始まりから3週間程度までに発症します。
その頻度は多くの報告がありますが、およそおたふくかぜにかかった人の千人に一人程度とされています。
ただ、耳下腺の腫れない不顕性感染でも起こることが知られています。
難聴になると治療法がなく回復は期待できませんから、一生難聴を抱えて過ごすことになります。
子どもの片方だけの難聴は生活にはあまり支障がないことが多いですが、まれに両方難聴になることがありますので、予防をしっかりするということが肝要です。
おたふくかぜの予防はワクチンを2回接種することです。
1歳のお誕生日にMRワクチン、水痘ワクチンと一緒にぜひ受けてください。
その次は年長さんのMRワクチンと一緒に接種をしましょう。
今は流行期ですから、1回接種の後1~2年で2回目を接種するという選択でも構いません。
日本脳炎ワクチン B型肝炎ワクチン
6月に入って函館近郊は暖かい日差しに包まれ、子どもたちにとって楽しい夏がもうすぐです。
楽しいことばかりであればいいのですが、水ぼうそうやおたふくかぜが久しぶりに流行していて、ワクチン接種をしていないお子さんを中心につらい時間があるのは、ちょっと切ないですね。
2年ほど前から市民の皆様にいろいろとお願いしていた日本脳炎ワクチンがこの4月から公費接種として開始になりました。
3歳から20歳未満の全てのお子さんが対象です。
7歳半から9歳までのお子さんは予防接種法の規定により接種は9歳以降となっています。
20歳ぎりぎりの人は、公費接種が4回すべてできないということがありますが、残りを有償でも接種するようにしてください。
4回行うことで有効な免疫を獲得することができるからです。
すでに任意接種で接種したお子さんは残りの回数を公費で行います。
かかりつけの先生とよく相談して進めていきましょう。
特別な事情のあるお子さんは6カ月から接種も可能ですので、これもかかりつけの先生と相談してください。
10月になるとB型肝炎ウイルスに対するワクチンも今年の4月以降に生まれたお子さんを対象に公費接種になります。
2カ月から1歳未満で3回の接種が必要です。
このワクチンは将来のB型肝炎ウイルスによる肝硬変や肝臓がんを予防するのが主たる目的です。
2カ月のヒブや肺炎球菌ワクチンと同時に始め、3カ月時に2回目、1回目の20~24週後を目安として3回目を行うというものです。
10月から始まりますので4月に生まれたお子さんは、タイトなスケジュールになっています。
10月になってすぐ始めないと、最後の1回が1歳を超え有料となる場合がありますので、注意してください。
ワクチンで予防できる病気はワクチンで予防するというのが、子どもにとって大切なことです。
あなたの大切なお子さんをワクチンで守ってあげてください。小児科医からのお願いです。
四種混合ワクチンの供給が再開になっています
国内にある製薬会社が生産する血液製剤の不正の影響で、四種混合ワクチン、B型肝炎ワクチンが出荷自粛となり、子どもたちの健康を守るという観点から不安が広がりました。
昨年末にも三種混合ワクチンの供給中止のため、現場が混乱しワクチン接種が滞り、他のワクチン接種に来た時に見つけて勧めることが多くありました。
四種混合、三種混合ともに含まれる百日ぜきに対するワクチンは特に重要で、中止していると流行を招く苦い経験を私たちは過去にしています。
百日ぜきは重症化すると、咳が強い状態が続き、低酸素脳症など脳に重大なダメージを来すことが知られ、最悪の場合には死に至ります。
幸いなことに、自粛となっていた四種混合ワクチンの出荷は11月26日をもって解除となっています。
また、違うメーカーの四種混合ワクチンも12月9日から発売され、供給の不安定さは解消しつつあります。
出荷自粛となったワクチンの品質については、製薬会社の第三者委員会や厚生労働省とも問題がない旨を公表しておりますので、安心して接種してください。
早急に、これまでワクチンをしていただいた先生に連絡を取り、接種計画を立ててください。
また、自粛になったワクチンに不安を持っているという保護者の方は他社のワクチンに途中から変えても、効果が薄れたり、副反応が増えたりする事態はありませんので、その点でも安心して早期に再開するようにしてください。
B型肝炎ワクチンは現在、任意接種という位置づけなので、供給量の急速な回復は望めませんが、徐々に回復傾向にあり、これもかかりつけの先生と相談しながら進めるようにしてください。
子どものうちに受けるワクチンは、公費のものでも、任意のものでもとても重要なものばかりです。
新しく導入されたワクチンは、いずれも接種できる年齢が限られているものが多くなっています。
これを機に母子手帳を見直して、接種していないワクチンがあれば早めに接種するように心がけてください。
水痘ワクチンの効果
2014年10月から子どもたちが待ち望んでいた水痘ワクチンの2回接種が始まりました。
水痘(みずぼうそう)は、皆さんよくご承知の通り、体に水ぶくれがたくさんできて、あとでかさぶたができる病気です。
多くのお子さんでは水疱(すいほう)からかさぶたまでで終わってしまいますが、時には水痘脳炎を発症したり、あるいは重症化して死亡に至ったり(統計上は毎年10人程度死亡しています)する実はとっても怖い病気です。
お年を召されてから発症する帯状疱疹(ほうしん)もウイルスは一緒です。
帯状疱疹は幼い時に水痘になったことが原因としてもたらされていると考えられています。
ワクチンを2回接種することにより、年齢を経た時に、帯状疱疹になるリスクが低くなると考えられます。
水痘ワクチンの定期化はこの短期間の間に函館の地にもすでに効果を表しています。
昨年度、当院で麻しん風疹ワクチン1回目を受けたお子さんの90%以上が水痘ワクチン1回目を接種しています。
その結果今年1月から6月までの水痘の流行は過去5年間の平均の4分の1までに減少しています。
流行が減少するのはとてもいいことなのですが、流行が減ればワクチンで免疫を作った子どもたちが、水痘ウイルスに知らない間に少しだけ触れて免疫が強化されることがなくなります。
結果として麻疹や風疹のようにワクチンを2回接種しなければ、子どもたちを水痘という病気から守れないということになります。
現在の水痘ワクチンの無償化は1歳から3歳の誕生日の前日までに3カ月以上の期間をあけて2回接種するというものです。
1回目は多くの方が受けていただけると思いますが、2回目を忘れないでください。
3歳以上のお子さんで水痘ワクチンを1回受けたけど、水痘にかかってもいないし、周りではやった記憶がない場合には有料になりますが、2回目の接種を受けましょう。
ワクチンで守れる病気はワクチンで予防する。病気にかかるほど怖いものはない。
こんな共通の認識が、皆さんの間に広まることを小児科医は望んでいます。