たかが脂肪肝(しぼうかん)されど脂肪肝
メタボリック症候群(内臓脂肪症候群)については、最近話題になってきているので、皆さんも知識があるかもしれません。ウエストが男性八十五cm・女性は九十cm以上ある方で、次の項目の二個以上にひっかかる方が該当します(●高脂血症●高血圧●高血糖)。
成人の有病者は千三百万人と推定されています。少し太ってきて、ちょっと血圧が高くなり、中性脂肪や血糖が少し高い状態が重なることで、脳梗塞(こうそく)・心筋梗塞などの動脈硬化性疾患になりやすくなる状態です。
実は脂肪肝も、このメタボリック症候群の仲間とみられています。脂肪肝―ご存知でしょうか? B型・C型肝炎のようなウイルスによるものではありません。最近太ってきて、コレステロールや中性脂肪が上がり、健康診断で「脂肪肝ですね」と言われたことはありませんか?
現在、日本の脂肪肝患者は八百万人と推定されています。この脂肪肝の中には、お酒を飲まないのに徐々に病気(脂肪肝)が進行し肝臓の働きが悪くなり、肝硬変になるNASH(非アルコール性脂肪肝炎)と呼ばれる恐ろしい病態も紛れ込んでいます。この病態の自覚症状はなく、今のところ脂肪肝である人の、どんな方がNASHに進行していくのかわかっていません(インスリン抵抗性のある方が多いと言われています)。
ですから、たかが脂肪肝として放置していますと、あるとき「かなり肝臓が弱っています」と言われることになるかもしれません。また、診断も単なる血液検査だけでは不十分なので、肝生検(かんせいけん)という肝臓の細胞を調べる検査が必要になります。治療についても、特効薬はありません。それでは、どうしたらよいのでしょう?
基本的には、生活習慣病ですので、脂肪肝と言われた段階でしっかりとした食事療法・運動療法を行い減量することです。
「血液検査の結果もちょっとしか高くないし、そのうち何とかなるだろう」というのはだめですよ。
糖尿病とこれからの季節
「日本人の糖尿病は、お盆の時期とお正月の時期に悪くなる」という有名な報告をしたお医者さんがいます。
これから、忘年会・クリスマス・お正月を迎えます。食事療法をしなければいけない糖尿病の患者さんにはつらい季節がやってきます。
誰もが、おいしいごちそうを目の前にして挫折するものです。
そんな時どうしていますか?
「あ~あ、昨日食べ過ぎちゃったから、今日は食事を抜こう~」なんてしてませんよね?
内服治療やインスリン治療中の患者さんは、このようなことをしてはだめですよ!
食事を抜いたり、極端なカロリー制限をすると低血糖になったり、朝はいいのですが、昼や夕食時間に非常に空腹感が強くなってまた食べ過ぎてしまいます。それを繰り返すと、どんどん食生活がうまくいかなくなり、糖尿病が悪化します。
また、特に治療中の人はアルコールにも気を付けましょう。
糖尿病の治療中にアルコールを多量に飲んで低血糖になる―というのは、非常に危険です。意識を失い、生死をさまようことだってあります。
また、果物の摂りすぎにも気を付けましょう。
こたつでミカンなんて、気がついたら一日に五~六個食べてしまいますが、糖尿病の食事療法では、果物は一日一単位~ミカンなら中くらいの物を二個、リンゴやナシは、一日半分。ブドウは、皮と種を含んで一八〇グラムです。
糖尿病の食事療法で食品交換表がありますので、これを見て、食べ過ぎに注意し、自分の摂取カロリーに気を配る癖を付けたいものです。
この季節は、食べ過ぎた日のことは水に流して、翌日からは主治医に教えてもらった食事量を思い出してきちんと定められたカロリー通り摂りましょう。
自宅で血圧を測りましょう!
病院や健康診断でドキドキして測る血圧~これだけでは高血圧の診断・治療は不十分です。病院だけで血圧測定をしていると、白衣高血圧と呼ばれる病院で測定するときだけ高くなる現象や、逆に仮面高血圧と呼ばれ、病院では正常であるが自宅で血圧が高い状態を見逃してしまいます。その結果、正しい血圧を知らないで薬を飲むと血圧が下がりすぎたりしてめまいを訴えたり、逆に血圧が正常だと思っていても実は不十分だったということになりかねません。
2004年の日本高血圧学会のガイドラインでも、この家庭血圧測定が大きくとりあげられています。装置は上腕カフ・オシロメトリック法を用いたものが推奨されています。
測定部位は、手首や指先のものではなく、上腕部分で測定するものが良いです。測定時間は朝と夜の1日2回。朝は、起床一時間以内、排尿後、服薬前、朝食前に座位1~2分安静にしてから測定。夜は、就寝前に座位1~2分安静にしてから測定します。腕の高さは、枕やタオルを使ってできるだけ心臓の高さに合わせましょう。測定回数は、朝晩少なくとも1回ずつ、できるだけ連日測定しましょう。ここで問題なのは、測定回数が決まっていないことです。朝1回だけ測るのか、2~3回測定して平均値を出すのか?
この疑問については、未だ学会でも答えが出ていません。ですので、血圧の数字を直接高い低いと一喜一憂するのではなく、朝と晩でどちらが高めか? いつもより高くなっているのか? というような傾向を見ることが大切です。
また、自宅で測定する血圧で、135/80mmHg以上は確実な高血圧として降圧治療の対象とする、となっています。昔に比べ血圧を低めに維持することが非常に大切であるというのが現在の高血圧治療の考えです。僕が医師になったときは血圧が160/90mmHgを超えたときから治療開始することになっていましたから意外に厳しい数字ですよ!
「血圧が高めだけど…病院へ行くのは…」というそこのあなた!
まずは、自分で血圧を測ってみてはいかがですか?
インスリン注射を怖がらないで
日本では、約65万人の糖尿病患者さんがインスリン治療を受けています。このインスリン注射の位置づけが最近変わってきています。
以前は、お薬が効かなくなったときの最終手段として、インスリン治療がありました。しかし、高血糖→インスリンの分泌が悪くなる・インスリンの効きが悪くなる→高血糖という悪循環を断ち切ることを目的に、早期にインスリン治療を行うケースが最近増えています。
早期にインスリン治療を行うと、血糖が高くても注射でインスリンを補充し血糖を下げることができるので、自分の膵臓(すいぞう)をインスリンを出さずにしばらく休ませ、回復させるとインスリンを分泌できるようになります。そうすると、注射の量が減り、うまくいくと、内服治療だけで良くなったり、常に良くなると、お薬も飲まずに、食事療法・運動療法をきちんと行うことで維持できるようにもなります。これができなければ、インスリン治療をして一旦血糖は下がりますが、その後体重が増えて結局インスリンの量が増え、血糖も上がるという悪循環になります。
糖尿病の薬が効かなくなっても、しばらく飲み薬で治療し、いよいよ血糖値が高くどうしようもなくなってからインスリン治療を開始した場合は、長い間、高血糖で痛めつけられた膵臓は回復せず、その後もインスリンを注射するしかなくなります。また、インスリン注射自体もいろいろ進化しており、以前は食事の30分前に打っていたものが、食事の直前・直後に投与することが可能になってきました。注射器もカラフルなものや、使い捨て型の簡単なものも出てきており、針も非常に細く、さほど痛くありません。
また、インスリン治療を行いますと、自己血糖測定器の使用が保険で可能になるので、自分で血糖を測定することができます。それにより、治療へのモチベーションも上がります。
医師にインスリン治療を勧められたら、なぜ必要なのか、十分に説明を聞いて、怖がらずにトライしてみる勇気を持って下さい。
糖尿病の気がある、と言われていませんか?
日本人は、欧米人に比べインスリン分泌が弱く糖尿病になりやすいといわれ、今や40歳以上の5人に1人は糖尿病かその予備軍であるといわれています。背景としては、ここ10年くらいの総カロリー摂取量は変わらずに、自動車の保有台数と脂肪の摂取量が増えています。つまり、食事量ではなく食事の質が変化し、かつ歩かなくなったことが一因といえます。
糖尿病はどんな病気でしょうか?血糖値が高くなる病気なのですが、全身の細い血管を壊していく病気と思って下さい。長い年月をかけ、あまり症状を出さずに、徐々に血管を傷害していきます。脳に起れば脳梗塞、心臓に起れば狭心症・心筋梗塞、眼に起れば眼底出血のため視力低下し、腎臓に起れば腎不全となり透析が必要になります。これが、サイレントキラーと呼ばれるゆえんです。
それでは、どうすれば糖尿病を早期に発見できるのでしょうか?糖尿病の初期には自覚症状はありませんので、まず採血して調べることです。その採血にもコツがあります。糖尿病の初期の段階では、空腹時には正常で、食後の血糖値だけが高くなることが多いのです。その為、糖尿病が心配で受診される際は、食後1~2時間後の血糖値を調べてもらって下さい。そこで少し高いようならば、改めて糖尿病の精密検査を受けましょう。
糖尿病の精密検査は、糖負荷試験と呼ばれ、空腹で行う検査です。空腹で受診し、空腹時に血糖値を取り、その後甘いブドウ糖液を飲んでもらい、30分後、1時間後、2時間後にそれぞれ血糖値を測定する検査です。合計4回採血され2時間かかる検査ですが、これで糖尿病かどうか診断します。
境界型と呼ばれる糖尿病と正常者の間に位置する人=糖尿病予備軍であれば、体重を5%程度低下させ、1日30分運動すると糖尿病になるリスクを減らすことができます。
最近太り気味で糖尿病が心配な方は、まずは食後血糖から調べてみませんか?
脳卒中を予防しましょう
高血圧や高脂質血症(こうししつけっしょう)をなぜ治療しなければいけないのでしょうか?
それらのほとんどは症状がありません。症状が無い場合でも、なぜ治療するのでしょうか?
それは高血圧や高脂質血症が脳梗塞(こうそく)や脳出血などの脳卒中を引き起こす原因だからです。治療にはまず生活習慣の改善が重要です。規則正しくバランスの良い食事を腹八分目・塩分を控え、野菜を積極的に摂りましょう。
体重はBMI=体重(Kg)÷身長(m)の二乗、が25未満を維持しましょう。
節酒・禁煙、運動不足を解消し、それでも検査値が正常よりも高い場合は薬を服用していただきます。自宅で家庭用血圧計で測った場合、最高135/最低85mmHg以上が高血圧です。主治医とよく相談し、患者さん毎に治療目標を設定してもらい、生活習慣の改善や、薬物療法によって目標をクリアすることが、将来の脳卒中の発生の危険を確実に減らすことになります。
動脈硬化とウエスト
内臓肥満、高脂質血症、糖尿病、高血圧症を、それぞれの程度は軽くても合わせ持つ人が動脈硬化症(どうみゃくこうかしょう)を起こしやすく脳梗塞(こうそく)や、心筋梗塞を発病する危険性が高いことが分かってきました。
現代社会の飽食と運動不足が動脈硬化症を増加させているので、予防するための診断基準が作られました。注目したいのは、今まで内臓脂肪はCT撮影などの検査で測定した検査値を用いていましたが、新しい診断基準にはウエスト周囲径が用いられたことです。
ウエストは内臓肥満と相関が高く測定が簡単で、自分で測定したり、食事や運動療法の効果を簡単に知ることもできます。
日本人での内臓肥満(内臓肥満蓄積100平方cm以上に相当)はウエスト周囲径で女性は90cm以上、男性は85cm以上です。時々ウエストを測ってみて食事や運動のことを考えてみてください。
内科医の診察
「○○さん診察室にお入りください」。呼ばれた患者さんが診察室のカーテンを開けた時から、医師は診察が始まっています。患者さんの姿勢や歩き方から神経疾患を疑ったり、痛みの部位や痛みの種類が分かることもあります。患者さんの顔色で貧血や呼吸器疾患、心臓疾患の有無を推測します。お化粧をされていると多くの疾患の症状がつかめない事があります。
患者さんの訴えを聞きながら、あらゆる疾患の可能性を疑ったり否定したりしながら、診察や検査の組み立てを考えていきます。患者さんは辛いところから話されることが多いですが、診断に重要な情報は必ずしも辛い症状が重要だとは限りませんので、質問をしてゆきます。おなかが痛いと診療所に来ているのに、身体の別の場所の話を聞くことも多々ありますが、これも正確に診断するのに重要な情報を得たいためです。この時点で、ある程度の的が絞れていますので、診察に入ります。
目で見た情報(視診)に聴診、触診、打診を行います。お腹の右側が痛い患者さんに、いきなり痛いところを触ると痛みでお腹が緊張して腸壁が硬くなり、多くの情報が取れなくなります。まず左のお腹から触ってゆきます。「先生、痛いのはそこではない」と、目で訴えていらっしゃる患者さんがいらっしゃいますが、決して間違っているのではありません。血圧を測るときも、患者さんの緊張から血圧が上がらないように雑談をしながら計ります。決していいかげんに診察しているのではありません。多くの疾患は、この診察過程である程度判断できます。更に確実に診断する必要がある場合、血液やレントゲン検査を行います。
内科医は、診察室で初診の患者さんの診断をこのような過程で行っています。診察時には、できるだけ化粧や、日常の動きが出ない洋服、マニキュアなどなさならないで受診していただくことをお勧めします。