私、納豆食べてもいいですか?
「先生、私は納豆が大好きなのに一生食べられないのですか?」と、Aさんは不満そうに聞いてきました。
どうやら診察前の待合室で「あなたも血液をさらさらにする薬をのんでいるんだから、納豆はダメよ」と世話好きな友人から言われたとのことでした。
このAさんのように血液をさらさらにする薬=抗血栓症薬をのんでいる人で、食事内容の事で悩んでいたり、また誤解をしている人は決して少なくないようです。
現代の医療において抗血栓症薬は最も有用な薬剤の一つであり、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な疾病の治療や予防に欠かすことのできない薬剤となっています。
抗血栓症薬には大きく二種類あり、抗凝固薬と抗血小板薬とがあります。
抗凝固薬の代表的なものにはワルファリンがありますが、それを服用している人が、ビタミンKの豊富な食材、たとえば納豆、青汁、クロレラ、海草、濃い緑色の緑黄色野菜(ブロッコリー、ほうれん草など)を食べてしまうと、服用したワルファリンの血液中濃度を低下させ薬効を減弱させてしまいます。
このことを心配しすぎて全ての野菜をほとんど食べなくなる人がいますが、それではかえって健康によくありません。普通の野菜は問題ありませんし、緑黄色野菜でも量を控えめに食べるのであれば大丈夫です。
しかし、納豆は腸内でビタミンKを産生する働きがあリ少量でも影響は大きいので食べてはいけません。
もう一方の抗血小板薬にはいくつかの種類があります。最も代表的なものにアスピリンがありますが、その他の抗血小板薬も近年有効性が証明されるようになりたくさんの人に処方されています。
これらの抗血小板薬の作用はビタミンKに影響されないので、納豆や緑黄色野菜などをたくさん食べても全く問題ありません。
このように「血液をさらさらにする薬」には、大きく二種類があり、基礎疾患の違いによって有効な方の薬が選択されます。
Aさんのように、何を食べてはいけないのか悩んでいる人は、自主判断せずに主治医の先生に一度聞いてみることが大事です。
糖尿病がある方の感染症対策 〜インフルエンザを中心に〜
ウイルス感染を防ぐためには、一般の方と同じく
- 石けんを使った手洗い(十分な手洗いができない場合はアルコール消毒液)
- 水でうがいをする
- ドアノブや手すりなどの拭き掃除
心がけましょう。
血糖値が高いとウイルスに対抗する「抗体」が体内で十分に作られなくなってしまいます。
このため症状が長引いたり重症になったりしがちです。
したがって普段の血糖コントロールを十分よくしておくことが重要です。
また、腎臓の機能が低下している人や神経障害を起こしている人は、さらに抵抗力が弱くなってしまいます。
感染してしまった場合、血糖が一時的に上がりやすくなります。
飲み薬(経口血糖降下薬)を安易に中止しない、などの注意点があります。
あらかじめ医師に確認しておきましょう。
予防接種は、もし感染してしまっても重症になることを防ごうとするものです。
今年の新型インフルエンザに関しては国が中心になり対象者を定めて接種が順次進められています。
自分の血圧を知ろう
高血圧症は高齢者では最高140mmHg/最低90mmHg以上、若年者や中年者については最高130mmHg/最低85mmHg以上とされ、40歳頃から増加する日本でも最も多い病気のひとつです。
高血圧症が恐ろしいのは、その状態が続くと、脳梗塞、心筋梗塞、腎臓病、大動脈瘤などの重大な原因となる事です。
その予防には、生活習慣の是正が大切で
- 食塩摂取は1日6g未満
- 野菜や果物を積極的に摂取
- 適正体重を維持する[体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))で25を超えない]
- 積極的に運動する
- アルコール摂取を制限する
- 禁煙を遵守する、等の複合的な修正を行う事がより効果的です。
血圧管理の大切さを理解し、時には専門医と協力しながら規則的で健全な生活習慣を続ける事が、高血圧症やそれに伴う重篤な疾患予防には最も重要なのです。
最近高率に見られる貧血症
ちょっと動いただけで、動悸や息切れを感じたことはありませんか?
朝、すっきりと目覚めることができない。
頭痛、めまい、疲労、肩こりなどの症状が続いたり…。
その原因は「貧血」によるものかもしれません。
血液の中にあるヘモグロビンの量が少なくなった状態が、貧血です。ヘモグロビンは体中に酸素を運ぶ働きをしているので、貧血になると全身が酸素不足の状態になります。
そのため全身に様々な症状が起きるのです。
貧血の九割を占めるのが「鉄欠乏性貧血」です。これは、ヘモグロビンを作る材料の一つの鉄分が不足することで起こる貧血のことです。
厚生労働省が推奨している一日の鉄分摂取量は、男性七・五mg、女性一〇・五gです。しかし実際の摂取量をみると、女性の場合、三・四gも不足しているといわれています。
鉄欠乏性貧血の原因は大きく分けて二つあり、一つは鉄摂取量の不足です。
まず必要なのは、食事の改善です。
規則正しい食生活を守り、無理なダイエットはせずに、鉄分の多く含まれる食品、例えば、レバー、ひじき、煮干や大豆などを摂取し、鉄の吸収を助けるビタミンCも一緒に取ることが大切です。
もう一つは、出血などにより材料の鉄が喪失することにより起こります。
例えば、胃・十二指腸潰瘍(かいよう)からの出血、この場合は、便が黒っぽくなります。
女性の場合は、子宮筋腫や子宮内膜症により、毎月の月経の頻度や量が増えることにより少しずつ貧血が進んでしまうことがあります。
また特に気をつけなければいけないのは、閉経した女性や貧血になりにくい男性に貧血の症状が現れた時です。
その場合は、胃がんや大腸がんなど消化器系の病気が強く疑われます。
たかが貧血、されど貧血です。
貧血の影に、様々な病気が潜んでいることが大変多いものです。
鉄分を取っても治らない場合は、腎臓が原因の貧血「腎性貧血」の可能性があります。
症状のある方は、自己判断で鉄分のサプリメントなどに頼ることで済ませたりしようとせず、医師に相談し原因を探すことが大切です。
肺炎に気をつけましょう
今ちまたでは新型インフルエンザが問題になっていますね。
日本国内でも発病した人が多数報告されていますが、皆さんが快方に向かってくれることを願っています。
またメキシコではかなりの死者が出たとのことですが、その理由は何だったのでしょうか。
記事を見ると、多くの人が重症肺炎にかかっていたとのこと、さらに免疫力の低下した人も相当含まれていたそうです。
これらのことから新型インフルエンザに感染した後、重い肺炎になってしまったことが死亡の原因だったのかもしれません。
二十世紀初頭に『スペインかぜ』が流行し、日本でも約五十万人が亡くなったと言われています。
亡くなった方の多くが細菌性肺炎を併発していたとの報告もあるようです。
つまりインフルエンザウィルスで弱ったところに細菌が入り込んで肺炎を引き起こすことが問題ということです。
日本人の病気による死因の第一位は「がん」ですが、肺炎も高位を占めており、油断できない病気です。
慢性の呼吸器疾患を持っている方は肺炎にかかりやすく、さらに重症化もしやすいと言われています。
また高齢者では嚥下(えんげ)機能(ものを飲み込む機能)が低下しており、食物が食道ではなく、気管支に入り込むことによっておこる、嚥下性肺炎にも注意が必要です。
肺炎を予防するためには肺炎ワクチンをうつことも有効といわれています。
ただし肺炎の原因菌すべてに効くわけではないので注意が必要です。
さらに嚥下性肺炎を予防するコツは、食事をとるときの姿勢です。
背もたれに寄りかからずに座り、あごを引いた状態で飲み込むようにします。
また、のどにつまりやすいものは避けましょう。
トロミがあると飲み込みやすいので、片栗粉やトロミ剤を使うのもひとつの方法でしょう。
また食後すぐに口の中をキレイにしましょう。食後すぐ横にならないことも重要です。
以上を実行すると嚥下性肺炎もかなりの確率で予防できるようになるでしょう。
胸の痛み、それをどう伝えていますか?
「先生、昨日の夜テレビを見ていたら突然胸が痛くなりました。
すこしの間我慢していたらおさまったので、救急病院へは行かなかったのですが・・・」と、Aさんは不安な表情を浮かべながら今は痛くない胸をさすりました。
このAさんのように診察の時に既に症状が無くなっている胸痛は、しばしばその診断を難しくさせます。
このような一過性の胸痛をおこす疾患で一番重篤なものは狭心症です。
狭心症は心筋梗塞の前兆でもあり、その診断が遅れることは死亡への危険を高めます。
そのため、その胸痛の原因が狭心症であるか否かを鑑別することはとても重要になります。
狭心症は、胸痛が残っている間であれば心電図をとることですぐに確定診断がつくのですが、Aさんのように来院時にすっかり胸痛が消えている場合は、心電図だけでは判らないことが多いのです。
そのため、診断の決め手としてとても重要なのは、どんな性質の胸痛だったのかということです。
何をしていた時に発症したのか、安静時なのか動作時なのか、痛みの場所は胸のどのあたりなのか、背中や肩や下あごの痛みを伴ったのか、痛みは体位によって軽減しなかったのか、痛みの強さは冷や汗が出るほどの強い圧迫されるような痛みか、弱い違和感のようなものだったのか、動悸や眩暈(めまい)や息苦しさも伴ったのか、持続時間は数秒間か、数分間か、数時間か、などの情報が狭心症を強く疑わせるか否かを診断する鍵となります。
また、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満、メタボなどの生活習慣病があるかどうかも重要です。
このようにして診断された結果、狭心症を「強く疑われる人」は入院して心臓カテーテル検査(冠動脈造影)を受けることを勧められます。
その結果で冠動脈に高度な狭窄病変が見つかった場合は薬物治療の他にカテーテル(ふうせん、ステント)治療やバイパス手術などを受ける場合があります。
しかし、「強くは疑われない人」の中にも狭心症である可能性は少なからずあるため放置されることはとても危険です。
入院せずにできる冠動脈CT検査や運動負荷検査やホルター心電図などを行い、狭心症を否定してしまう事で大きな安心を得る事ができるでしょう。
胃バリウム検査では見つけにくい『食道がん』
最近、元女性アナウンサーが「食道がん」でお亡くなりになりました。
53歳の若さでした。
毎年、人間ドックで検査を受けていたそうです。
毎年検査を受けていたのに、なぜ?
胃バリウム検査だけでは、診断能力に限界があります。
特に、食道の撮影は、食道をバリウムが素早く垂直に流れていくため撮影のタイミングが難しいこと、また、集団検診の多くが、レントゲン技師が撮影し、後日に医師がその写真を見て診断するため、検査中の状況が十分に把握できず、細かい診断が難しくなるのです。
「早期の胃がん」でも胃カメラ検査時の微妙な色調の変化が発見のきっかけになることがあり、これもバリウム検査ではわかりません。
「食道がん」により、胸やけ・食道つかえ感が出現してくるのは、かなり進行してからになります。
毎年のバリウム検査だけで安心せず、今年は胃カメラ検査を受けてみてはいかがでしょうか。
「食道がん・胃がん」は、早期に発見されると、適切な治療で完治することができます。
高血圧をやっつけろ!
今年から、日本高血圧学会が高血圧のガイドラインを変更しました。
内容は、さらに血圧を低く管理することです。なぜ血圧を下げるのでしょうか?
それは、健康に長生きしたいからです。
血圧を下げることにより、脳卒中・心筋梗塞による死亡リスクを減らすことが出来ます。
具体的には、血圧をたった2mmHg低下させると脳卒中になる率が約6%、心筋梗塞は約5%低下するそうです。
また、血圧が120mmHg以下の人に比べると140mmHg以上の人は 脳卒中・心筋梗塞による死亡リスクが3倍以上になります。
これらのデータをもとに、血圧をより低く管理することが必要になりました。
皆さんに出来ることは、まず、血圧測定をすることです。
測らなければ自分の血圧が正常なのかどうかもわかりません。
初期の高血圧患者さんは自覚症状は全くありません。
「頭も痛くないし大丈夫」と思わずに、まずは自宅で血圧を測定してみましょう(血圧計は腕に巻くタイプ・オシロメトリック法という測定方法のものが良いです)。
今回のガイドラインの改訂で自宅での血圧は、若年・中年者は、125/80mmHg未満、高齢者135/85mmHg未満が目標となりました。
この数字は医師である僕がみても厳しいなと思います。
時間をかけて少しずつ目標に近づけること、そして、より血圧を下げるという意識を持つことが必要になります。
漫然と血圧のお薬を飲むだけではなく、自分で出来ることをしてみましょう。
まずは減塩です。
日本人の食塩摂取の平均は11gですが、6gを目標にしましょう。
具体的には、味噌汁・スープは1日1回だけにする。漬け物を出来るだけ避ける。
減塩醤油を使ったり、ポン酢やレモン汁等で代用する。
次に、体重を4~5kg減量させると血圧も低下しますよ!
運動は散歩程度で構いません。
日常生活で車は駐車場の端に止めるとか、買い物は歩いていくことなどから始めましょう。この春、何か一つでも出来そうなことから始めてみませんか!?
膠原病(こうげんびょう)ってなあに?
膠原病という言葉は知っていても、きちんと理解している人は少ないと思います。
膠原病とは1つの病気ではなく、膠原(=コラーゲン)の豊富な組織に炎症・変性をきたす病気の総称としてつけられた言葉です。
何らかの原因によって、自己を守る体の働き(=免疫)に異常が生じて起こります。
代表的なものに、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎・多発性筋炎、シェーグレン症候群などがあります。
このうち、関節リウマチは国内の患者数が70万人以上と大変多いですが、その他の病気は数千人から数万人にすぎません。
それぞれの病気で特有の症状がありますが、頻度の高いものとして、発熱、関節痛、筋肉痛、皮疹、レイノー症状(寒冷時などに指が白・紫に変色する)などが挙げられます。
思い当たる方は専門医の診察を受けてみてはいかがでしょうか。
そのだるさは ただの疲れのせいだけですか?
最近、はっきりとした原因がないのに、体が疲れやすいな、体のだるさが続くなと思う事はありませんか?
体内で甲状腺ホルモンが多くなったり少なくなったりすると、全身に様々な症状が現れ、原因のわからない体調不良や疲労感を来す事があります。気のせいだとか、ただの怠け者と誤解されている人も少なくないのです。
甲状腺の病気は20歳~50歳代の女性にたいへん多い病気で様々な症状が出現します。
甲状腺は、喉仏(のどぼとけ)のすぐ下にあり、蝶のような形をした臓器です。
正常の甲状腺はやわらかいので外から手で触ってもわかりませんが、腫れてくると手で触ることができます。甲状腺が腫れる場合は、何らかの甲状腺の病気を持っている可能性があるので、自分で触れてみる習慣をつけておくのが良いでしょう。
甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、活動するための必要なエネルギーを作り、快適な生活を送るためになくてはならないホルモンなのです。
甲状腺の病気は、
- 甲状腺ホルモンが多い状態
- 少ない状態
- 腫瘍やのう胞ができた状態
の主に三つに分けられます。
甲状腺ホルモンが増えすぎると、暑がり、汗が出て疲れやすい、イライラする、動悸・息切れがする、手足が震える、食欲が旺盛なのに体重が減る、などの症状が現れる事があります。
逆に甲状腺ホルモンが足りなくなると、寒がりで疲れやすく、無気力、声がかれる、皮膚の乾燥、動作が鈍くなり、むくみが出やすくなるなどの症状が出ます。
そのために、自律神経失調症、更年期障害、うつ病、あるいは心臓病、腎臓病、皮膚病などが疑われることがあります。
しかしきちんとした診断を受け適切な治療を続ける事で、見違えるほど元気になり、健康な人と同じように運動や仕事と何でもできるようにもなります。
甲状腺ホルモンは、簡単な採血で測定することができます。
気になる症状がある方は、一度甲状腺ホルモンのチェックを受けてみましょう。